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9月22日(土) 講座②アートってなんだろう? (講師|佐藤悠 アーティスト)

2018年09月25日

講座②では、「アートってなんだろう?」と題して
アーティストの佐藤悠(さとうゆう)さん(https://www.yusatoweb.com/)
をお招きしました。

佐藤さんは、何も無いところから、誰かが関わる事で表現が紡がれてゆく現場を作りだすアーティストです。主な活動に、直径3m の「ゴロゴロ」と呼ばれる竹製の球体に佐藤さんが搭乗し集落の頂上から麓まで転がり下りる【ゴロゴロ莇平】、1枚の紙に絵を書きながらその場にいる全員で即興で物語を作る「いちまいばなし」など、そこに関わる人々から自然発生的に起きる行いを取り込みながら表現活動を継続されています。最初の自己紹介では、いままで行ってきた活動とあわせて、場と関係性の中で行う表現や、そこで巻き起こる事柄を積み上げていく過程を価値ととらえる表現が抱える課題について語られました。佐藤さんがアーティストとして、「現場」を共有していない人へ、その表現の価値をどう伝えていくのかを課題とし、そこから表現を伝えることより、伝えることを表現にしようと考えるようになった過程について、丁寧にお話しいただきました。最近は美術館での観賞プログラムにも表現の幅を広げているとのことで、その理由として、「受信」側に興味があると仰っていたのが印象的でした。

 

佐藤さんの活動紹介の後は、
ついに、【知ったかアート大学】が札幌で初開講です。

【知ったかアート大学】は、2016年より各地で開催されているアート講座です。
多くの人にアートを自分の力で楽しむ観点を広めることを目的とし、
中学校や高校、地方の造形教室や子育てサークルのイベントなど、
開講場所は決してアートに関連した施設だけではありません。
佐藤さんの特徴でもある軽快なトークとアーティストならではの目線で、
アートの歴史や成立の背景を≪ザックリ≫と解説することで解き明かし、
いつの間にやらアートってこんなもんなんだと、
≪知ったかぶり≫になれるプログラムです。

 

今回の講座では、洞窟壁画からアートプロジェクトまで<近代以降・近代・現代・現在(+日本のアートプロジェクト・芸術祭)>の約2万年のアートの歴史をざっくりと把握する1限目として、とても怪しげな風貌の「開木名折教授」の授業を受けました。社会の流れと共に変化してきたアートの歴史を、軽妙なトークとパフォーマンス、アートコミュニケーターを巻き込んでの寸劇などを交えながらの、あっという間の2時間でした。

美術史を大胆に編集し、
テレビ番組のバラエティーでも見ているような気にもさせるエンターテイメント性は、
アートやアーティストという存在を崇高なものとして扱わないという
メッセージが込められているようにも感じました。

講座後の質問の時間には、
アート呼ばれるものとアートとは呼ばれない、たとえばお祭りなど(文化)の違いについてや、芸術祭の今後についてなどといった質問が飛び交いました。

 

午後からは、事前に出されていた課題を使ってのグループワークをおこないました。

課題は、

 


札幌にある作品 イサム・ノグチ≪ブラック・スライド・マントラ≫(大通公園8丁目)について調べ、ある特定の親しい人(家族、親類、友人、恋人等)に向けて語ることを想定して、その作品について調べ、伝えたいことや、その伝え方についてA4用紙1枚程度で自由に表現してください。


 

という内容でした。

この課題では、≪ある特定の親しい人≫をどのくらい具体的にイメージできるかがポイントです。アートコミュニケーターたちそれぞれの≪ある特定の親しい人≫が、どんな物なのか、年齢は?性別は?趣味は?興味のあることは?どんな言葉使い?自分との関係性は?について考え、イサム・ノグチの作品≪ブラック・スライド・マントラ≫についての情報をどう編集し、相手に伝えるのかを考えることが課題です。

他者に対する視点や、相手を受信する力は、自分たちで企画を立てるときや、プレーヤーとして参加者と関わるときなど、アートコミュニケーターとして活動をおこなっていく上で重要なことです。

佐藤さんから、コミュニケーションは「キャッチボール」。受け手(聞いてくれる人)がいるからコミュニケーションが成り立つ。しかし、投球をコミュニケーションと思っている人がいる。受け手のことを考え、どんな球を投げたら相手は受け取ることができ、またその球が投げ返してくれるのか。調べたこと、知っていることを全て言いたいという気持ちをぶつけるだけでは、コミュニケーションの場は作れないといったようなアドバイスがありました。

 

事前課題をおこなうにあたり、 イサム・ノグチ≪ブラック・スライド・マントラ≫について、アートコミュニケーターたちは、本、WEB、人に聞いた、行った、すべった、想像、過去の経験など様々な方法でリサーチしてきたようです。課題の用紙は文字でビッチリでした。

そのリサーチした内容を、どんな相手にどう使えるのか…それぞれの事前課題の内容についてグループで共有し、面白い視点や発見について話し合うグループディスカッションの開始です。(グループディスカッション:45分)

 

共有の終わったチームから、後半のグループ発表に向け、シェアした内容を模造紙にまとめていきます。

 

受け手をどのくらい具体的にイメージできているか…調べること、情報を集めることにとらわれてしまったメンバーもこのグループワークを通して課題の主旨について考えることができたでしょうか?

 

グループワークの後は、グループごとにプレゼンテーション(各5分)をおこないました。遊具である特徴や、その形を「黒いロールケーキ」や「胎内めぐり」と表現してみたり、大通公園にあるという立地を活かしたり、ちょうど開催されていたさっぽろオータムフェストを興味のきっかけに使う案、ツアー形式の長期的なプランなど様々な伝え方がありました。

中には、「のぼってちゅるん」など、その一言で、伝える相手やその関係性までも想像できてしまうようなアイデアもあり、伝え方の多様な在り方を感じました。

 

母親同士が親子の思い出を語り合う設定や、閉店間際の居酒屋でマスターや女将、酔っ払いたちの駄弁りのシチュエーションで作品を語り合うなど、グループ発表にも工夫がありました。

 

互いのグループ発表を聞き、なるほどこういう発想もあるのかと、「伝える」の可能性を感じることが出来ました。

相手の状況や興味、場の設定との関係性を考え、伝えたい気持ちを自制し、伝えるために、情報を切り捨て、自分が伝えたいことや知っていることを整理し、編集していくことは簡単なことではありません。そのためには、発信、受信、また、それを客観的にみる視点を想定してみることが大切です。

今回の講座では、これからアートコミュニケーターとして活動を行う上での、重要な視点について確認することが出来たのではないでしょうか。

(アートコミュニケーション事業担当 渡部)

 

 

 

 

 

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2018年9月1日(土)講座①仲間を知ろう(講師|納谷真大 俳優・演出家)

2018年09月05日

2018年7月、書類選考・面接を経て、「SCARTSアートコミュニケーター」として活動していく30名余りのメンバーが決定しました。
8月16日にオリエンテーションを終え、第1回目の講座は「仲間を知ろう」をテーマに、俳優・演出家の納谷真大(なや まさとも)氏を講師にお迎えして実施しました。
メンバーはまだ顔も名前も一致せず、年齢、職業、バックボーンもさまざま。
これから活動を共にしていくための基盤づくりとして、お互いのことを知るために、演劇の手法を用いたコミュニケーションワークショップに取り組みました。

 

まずは、「名札」をつくるところから。ガムテープにマジックで字を書き、身体に貼り付けます。ただし、書くのは自分の「名前」ではなく、10文字の「自分を表す言葉」。単なる記号としての名前ではなく、10文字のなかで、自分のパーソナリティを表現します。相手の胸に付けられた短い言葉を通して、その人に対する「イマジネーションをふくらませる」ということが、「コミュニケーションの第一歩」であると納谷さんは言います。

各々「名札」をつけたところで、納谷さんが俳優という生業を通じて考えてきた「コミュニケーション」についてお話しいただきました。
まず、俳優は「嫌いな人」をつくれない、というお話から。誰かを嫌いと思うと、その人の役を演じることができなくなる、嫌だと思ってもシャットアウトせず、相手の思考を分かろうとすることが自分の視野を広げる、とのご発言に納得。
また、コミュニケーションにおいては「発信」よりも「受信」が大事、とのこと。役者の仕事でも、自分が望む演技を相手に求めるのではなく、自分が相手の演技を受け取って、過不足なく反応する、ということが大切なのだとか。相手を受けとめるキャパシティを持ち、相手が何を思っているかをとらえるところからコミュニケーションは始まる、そういう意味では、「おしゃべりな人=コミュニケーションの達人」というわけではない、ということが語られました。

 

さて、ここからはワークショップに入っていきます。

まずは「歩く」ことから。今いる部屋の「空間全体を埋める」という「目的」を持って、全員でスピードを保ちながら止まらずに歩きます。ここでは俯瞰的に「状況を把握する」力を発揮しなくてはなりません。
次に、すれ違った人とアイコンタクトをとって手のひらをタッチし、「こんにちは」と挨拶します。ここでゆるやかな「人間関係」が構築されていきます。さらに、「納谷王国」の住人になったつもりで、挨拶は納谷語で「○○○」と言う、2回目の挨拶は「×××」と言う…など、ミッションが増えていきます。そうすると、複数のミッションを間違えずに行うために必死になって、「空間全体を埋める」という最初の目的がすっかりお留守に…
同時に複数のミッションを課せられ、頭をフル回転させながら、人と良好なコミュニケーションを築くことを試みるワークショップです。

 

このあとは、納谷さんからの指示で止まったり歩いたりする「ストップ&ゴー」、言葉を使わずに5人組をつくったり、図形をみんなで作り出すワークショップ、2人1組でドライバーと車の役をする「2人でドライブ」を実施。
言葉を使わないワークショップでは、誰かが言葉で指示すれば簡単にできることを、みんながまわりの人を動きを見て、全体を捉えながら、達成していきます。1人の「リーダー」が仕切らなくても、全員がお互いのことを視野に入れながら物事が動く状態をつくる、このフラットで思いやりのある関係性は、今後のアートコミュニケーターの活動においてもきっと大切になってくるでしょう。

ここまでで午前の部は終了!
みんなで一緒に頭と体を使い、すっかり気持ちもほぐれた様子でした。

午後の部は「21ゲーム」から。
10名余りのグループに分かれて、「最低一人ひとつ数字を言う」ということを条件に、各々がタイミングを見計らって1から21まで一人ずつ数えていく、というゲームです。複数人が同時に数字を言ってしまったらアウト、です。

 

「いちッ!」と最初に積極的に言う人、みんなに譲ってなかなか言わずに、終盤でぼそっとつぶやく人など、メンバーの個性が如実に表れ、それを納谷さんが的確に指摘するので、回りで見ているチームも笑いが止まりません。

 

「自分が最低ひとつは数字を言う」というミッションを持ちながら、他者との折り合いをつけて、全体の気配を読みながら自分の発声の機会を伺う、ここでもやはり求められるのは「受信力」でした。

 

続く「3の倍数ゲーム」「言葉の連鎖ゲーム」も大盛り上がり。
最後は「ずいずいずっころばし」を歌いながら隣の人にマジックペンを渡していくゲームを全員で。一定のリズムながら、時々逆回転が入るので難しく、ちょっとした受け渡しのスピードなどで、得意な人が苦手な人をカバーしながら達成しました。

 

最後に、もう一度「2人でドライブ」を行い、パートナーを10字以内の言葉で表現して終了です。ワークショップに一緒に取り組んだことで、それぞれパートナーの長所がよく見えたようでした。

 

納谷さんの巧みな「突っ込み」もあって、まだ名前も知らないメンバーなのに「おっちょこちょいさんだな」とか「控えめな方なんだな」とか、それぞれのキャラクターが見事に伝わってきてしまうことにみんな思わず笑ってしまいつつ、アートコミュニケーターが多様な個性をもつメンバーの集まりであることがあらためて実感できたのではないかと思います。
また、自分が何か発信することがコミュニケーションなのではなく、仲間の個性や思考を受信することこそがコミュニケーションを開くのであり、個人ではなくチーム全体として目的の達成のために動く、ということの大切さを意識させられる講座となりました。たくさん体を動かし、たくさん笑い、メンバー同士の距離が縮まった一日でした。

(アートコミュニケーション事業担当 樋泉)

 

 

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