ひらくラジオ③「ぶっちゃけ、アートコミュニケーションってなに?(前半)」ゲスト:伊藤達矢さん、ひらくメンバー

SCARTSアートコミュニケーター「ひらく」1期生 卒業(仮)展

札幌文化芸術交流センター SCARTS(札幌市民交流プラザ1-2階)
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2022 02/26

2022 02/28

UP:2023/01/11

それぞれの思いや発想を形にした卒業展

 

齋藤|そろそろ前半終了ということで、今開催している「卒業(仮)展」で、お三方がそれぞれどんなことに取り組まれたのかを簡単にご説明いただきます。八木澤さんからお願いします。

 

八木澤|私はひらく編集部のみんなで「ひらくだより」という冊子をつくらせていただきました。

 

 

齋藤|これですね。開いてみると「凹みスタディってなんなん?」という記事があります。「凹みスタディ」は札幌市民交流プラザに来たことがある人は誰もが目にしているパブリック彫刻で、その作品をあれこれ紹介したり、あとはまさにコロナの話もしていますね。他にも、「雑談してますか」ということでコロナ禍の中での雑談論があったり、とても面白い冊子なのでぜひ手に取っていただければと思います。

 

柏原|先ほど話に出た、札幌芸術の森美術館で開催した「きみのみかた、みんなのみかた」展の中で、私たちが参画したのが「きみのかたち、みんなのかたち〜みんなでつくってみた〜」というプログラムです。美術館の展示場に行く通路とそこから見える中庭を使って何かやろうというところからスタートしました。何がやりたいかを考えるところから始めて、最終的には雪で遊ぶという内容になりました。中庭に紙を貼り込んだ大きなパネルを立てて、そこに食紅で色をつけた4色の雪玉を思い切りぶつけてもらって、その色がどんどん重なっていく、みんなでその過程を楽しもうというものです。もう1つは、中庭の通路のガラスにみんなでいろんな大きさの丸・三角・四角のカラーシートを切り貼りしてもらって色とかたちを楽しんでもらうという企画でした。

 

 

齋藤|僕も現場にいましたが、とにかく参加してくれた子どもたちがはしゃいでいて、とてもよかったですね。

 

柏原|本当にみんな、思いっきり発散してくれて。その会場をつくるときはすごく雪が積もっている時期で、みんなで雪かきしました。

 

齋藤|はい、雪かきも面白かったですね。1メートルぐらい積もっていたので。藤田さんは対話による鑑賞のプログラムのほかに、別の企画にも参加されていましたね。

 

藤田|「凹みスタディ鑑賞プログラム」に参加しました。

 

齋藤|「凹みスタディ」というのは、先ほどもお話に出たSCARTSにある谷口顕一郎さんが制作された黄色の彫刻ですよね。

 

藤田|SCARTSのシンボル的な作品です。

 

 

齋藤|どんなことをやったか、ちょっと簡単にご説明いただけますか。

 

藤田|あの黄色い目立つ作品は、私たちを見守ってくれた大事な作品ですが、「みんな意外と知らないよね、じゃあもっと勉強してみよう」ということになったんです。プログラムにしたきっかけは、あるメンバーの「寝転びながらこの作品を鑑賞してみたい」という一言でした。作者の谷口さんは海外にお住まいなんですが、たまたま札幌にいらっしゃるということで、そのプログラムに参加していただけることになりました。作者の前で寝転んで見るのはいかがなものかと反対意見が出たりもしたんですが、実際にプログラムが始まってみると、一番長く寝転んでいたのが谷口さんで、とても面白いとおっしゃっていただきました。

 

齋藤|今は公共施設で寝転んだりしたら怒られちゃいますから。

 

伊藤|ご時勢だよね。

 

齋藤|でも、「寝転んで見てみたい」という素直な気持ちをちゃんと実現するところが、アートコミュニケーションの面白いところですね。

 

伊藤|いろいろあったんじゃないかなとは思うんですよ。「うそ!?」「それ本当にやるの!?」というような。

 

齋藤|ありましたね。

 

伊藤|僕にとっても、自分にはないアートコミュニケーターの発想に触れ続けていくことが必要だと実感しています。これから膨らまそうとしているアイデアの種、そのアイデア自体の良し悪しの以前に、その発想に至ったもともとの考えを理解することが大事ですが、そういう対話の場は会議などでは絶対生まれません。提案として出てきたものの背景を考え続けていかないと、やっぱり文化事業は成り立たないと思うので、そういう意味でこの3年半のアートコミュニケーターの活動は非常に有用でしたね。

 

齋藤|SCARTSにとっても、アートコミュニケーターの存在は大きいですね。新しいものを考えるときには、ある種の突飛さのようなものが必要ですし、そうしないと独りよがりで偉そうな文化施設になってしまいかねないと思っています。

 

伊藤|1人の天才が誰も思いつかないようなことを作り上げていく……というのはフィクションの中の話です。特に文化施設では、運営している職員をはじめいろんな人たちがいて、それぞれ専門性があっても、今までやってきたことや、自分が常識だと思っているものを飛び越えられずにいます。そこを突破して常に新しいものに更新していく、それを絶やさない仕組みが組織の中に内在しているかということが問題です。その仕組みがない組織というのはもう退廃するしかなくて、これからはそこをどうやってデザインしていくかが問われるのではないかと思います。

 

齋藤|ありがとうございます。この後は伊藤先生と私で、アートコミュニケーションについてもう少し深掘りをしていきたいと思います。ご参加いただいた八木澤さん、柏原さん、藤田さん、どうもありがとうございました。

 


【プロフィール】

伊藤達矢(いとう・たつや)/東京藝術大学社会連携センター特任教授

1975年生まれ。東京藝術大学大学院芸術学美術教育後期博士課程修了(博士号取得)。東京都美術館と東京藝術大学の連携によるアートコミュニティー形成事業「とびらプロジェクト」および、上野公園内に集積する9つの文化施設を連携させたラーニングデザインプロジェクト「Museum Start あいうえの」では、プロジェクト・マネージャを勤め、多様な文化プログラムの企画立案に携わる。共著に『ミュージアムが社会を変える〜文化による新しいコミュニティ創り』(現代企画室)、『美術館と大学と市民がつくる ソーシャルデザインプロジェクト』(青幻舎)等。

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