ひらくラジオ③「ぶっちゃけ、アートコミュニケーションってなに?(前半)」ゲスト:伊藤達矢さん、ひらくメンバー

SCARTSアートコミュニケーター「ひらく」1期生 卒業(仮)展

札幌文化芸術交流センター SCARTS(札幌市民交流プラザ1-2階)
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2022 02/26

2022 02/28

UP:2023/01/11

アートと人々をつなぐ「回路」をつくる

 

齋藤|では実際にアートコミュニケーターとして活動してみてどうだったか、みなさんにもう少し話を聞きましょうか、藤田さんから順番にお願いします。

 

藤田|私にとって、今ここで喋っていること自体が驚きです。人前で話をするなんて避けて通りたい道だったので(笑)。いろいろな研修やプログラムを通して、誰に、何を、どのように伝えるかということが整理できるようになりました。どうしてもやりたいという思いが先走ってしまうところを、立ち止まって整理することができるようになってきたという感じです。

 

柏原|私は何も知らないでここに入ってきたんですけど、自分の知識の中で感じたことをその場で素直に言える、そういう心地良さが感じられる場所でした。ワークショップをつくっていく上で、みんなとは違う意見がある場合にもいったん受け止めて、どういうタイミングでどのように伝えればいいか、そういうことも学べたと思います。

 

八木澤|私はデザインの勉強を大学でしてきて、その後はゼネコンで土木設計に携わってきました。現場は命がけで働いている人たちがたくさんいる大変な世界ですから、「アートってどれだけ命かけてるの?」って、ちょっと斜に構えていたんですね。でも入ってみたら、アーティストは作品に必死で向き合っているし、そのアーティストの言葉を伝えるために一生懸命な人たちがいて、文化についてとことん考えて、そこに人をつなごうと頑張っている人たちがいるということを知ったんですよね。それがアートコミュニケーターになって一番良かったことです。アートは高尚なものだと私も思っていましたが、もっと身近な存在だということを学べたのはとても大きいことでした。

 

 

齋藤|専門家だけではなく、いろんなバックグラウンドを持った人が手を取り合う場というのは、たぶん多ければ多い方が良い社会ですよね。

 

伊藤|そうですね。これは文化施設だけではなくて一般的な話で、どんな業界でもその分野のプロフェッショナルの仕事というのは社会と必ず関わるわけですよ。自分たちの仕事と社会とのつながりをどうデザインしていくか、時代に合わせて考えていかなければいけないのは当然です。バブルの時代に、文化施設ができると街は文化的になるというような考えがあって、あちこちにたくさんの文化施設ができました。わが町にも名画を、というような感じでしたね。でも、そういう施設が、美術作品を持っていても活かしていない、ごく限られた人たちだけのものになっているということが問題になっています。作品の魅力などの伝え方、回路づくりということをもっと考えていかないと、公金を使う文化施設として成り立たないんですよ。

 

齋藤|私立美術館なら、好きな人が来ればいいんですけど。

 

伊藤|そう。公金で施設を運営して、専門家が作品を購入してコンテンツを作って、それを消費していくという関係性で済んでいた時代とは違うんです。特に、SCARTSには収蔵作品がありませんよね。

 

齋藤|パブリックアート(※4)はありますけど、コレクションは持っていないですね。

 

伊藤|そこでどういう回路づくりをしていくか、それは当然考えていかなければいけないことです。

 

齋藤|そうですね。アートコミュニケーション事業をSCARTSが実施しているということは、やっぱりそこが一番のポイントだと思うんですよね。接点がない人と出会えるというのはここにいる全員にとって大きなメリットだし、札幌市はこの施設によって、何千万、何億を出して絵を1枚買うよりも大きな財産を得たのではないかと思っています。

 

 

伊藤|美術作品という財産ももちろん大事ですが、それを活かしていくためにも回路が必要なんです。例えば、美術にはほとんど関心がなかった人がある作品を見て面白いと感じたときに、美術やアートがどんな回路で届いていくのかということを考察することもできるわけで、そういう学びはなかなか得難いですよね。

 

齋藤|そうですよね。人と人が出会って人が変わっていくというような回路をつくることが大事だと思ってやってきたんですけれども、コロナ禍でそれがうまくいかなくなってしまって。アートコミュニケーション活動というのは人と人が出会って話をするというのが肝ですが、それがやりにくい状況が続いています。アートコミュニケーターとして活動していくための戦略も立てにくい中、ひらくのみなさんは何か考えることはありましたか?

 

柏原|自分の中に、土曜日にはここに来るというスケジュールがあったんですけど、それがなくなって、どこに居場所を見つけようという感じになったときもありました。コロナ禍でもどこかでつながっていたいという気持ちをそれぞれが持っていて、オンラインでのコミュニケーションを提案してくれる人がいたり、それに乗っかる人がいたり。

 

齋藤|そうですね。オンラインの掲示板でいろんなスレッドをつくって、そこで雑談をしたりしていました。あのときは人と会えないフラストレーションが溜まっていましたね。

 

(4ページ目「コロナ禍でのアートコミュニケーション」に続く)


(※4)公園や市街地などの公共空間に恒久的に設置される芸術作品のこと。

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