ひらくラジオ④「ぶっちゃけ、アートコミュニケーションってなに?(後半)」ゲスト:伊藤達矢さん

SCARTSアートコミュニケーター「ひらく」1期生 卒業(仮)展

札幌文化芸術交流センター SCARTS(札幌市民交流プラザ1-2階)
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2022 02/26

2022 02/28

UP:2023/01/11

文化施設や文化事業には対話の構造が必要

 

齋藤|そういえば「とびらプロジェクト」の説明をしていませんでした。これは東京都美術館で行われている市民参加型のプロジェクトで、「ひらく」と同じようにアートと市民をつなげる活動をされていて、『美術館と大学と市民がつくるソーシャルデザインプロジェクト』という本にもなっています。この「とびらプロジェクト」をモデルケースにして、我々も札幌でこの「ひらく」の事業を始めたわけですけれども、全国的にもかなり広がっていますね。

 

伊藤|7か所くらいですね。

 

齋藤|青森県の八戸市や山口県の宇部市、岐阜県や長野県でもやっていますよね。もちろんその場所ごとに内容は違うと思うのですが、どれも文化施設や美術館の新しいかたちを示しているように思います。こうした動きは、伊藤先生がご自身で広められたのですか?

 

伊藤|そういうことではないですね。施設がリニューアルをする、新しく事業設計をするというタイミングになったときに、社会とその施設がどう関わっていくか、文化事業をどう社会と結びつけていくかというのは絶対に出てくるテーマですから、担当の方は、表面的なプロジェクトの進め方などではなく、本質的に何が求められているのかということが知りたいわけです。担当者がみんなで考えなければならないという状況に直面したときに、先にやっているこちらには言語化できている部分があって、それが参考になるということはあると思います。

 

齋藤|きっと、本質的に抱えている問題はどの地方でも同じなのでしょう。社会環境が大きく変わって、地域コミュニティも衰退している状況の中で、どうしたらいいのかと考えるときのロールモデルになっていると思います。

 

 

伊藤|地域社会の中でプロジェクトをつくっていく時に大切なことも、実は「対話による鑑賞」の話と同じです。つまり、「対話の構造」をどうやって入れていくかということに尽きるんですよ。都美と藝大が一緒に組んで事業を始めたのも、美術館という文化施設の中に大学の理論が入ると対話の構造ができるからなんですよね。その対話の構造を持たない文化施設は危機感を持った方がいい。

 

齋藤|文化施設に限らず、問題は抱えているけれどどう解決していいか分からないというときに、やっぱり成功例をそのまま手本にしたくなると思うんですよ。だけど、当然ローカライズしなきゃいけないし、成功例がなぜうまくいっているかということを考えて、自分たちの状況に合わせてアレンジしないと意味がないですよね。

 

伊藤|「ひらく」は3年経って最初の卒業生が出て、ひとつのフェーズが区切りを迎えた今こそ、次はどのようにこの場を醸成させていくのかを考えるタイミングです。今だからできる対話の構造をしっかりと持ち込んだ方がいい。このセンターの機能と札幌の街との関係性や、目指すべき姿に近づけるための方策など、来年以降の事業全体のことをアートコミュニケーター全員としっかり話さなければ、本当の文化事業にはならないと思います。

 

齋藤|本当にその通りだと思います。このトークイベントも問題提起の一環としてやったことで、山崎先生も伊藤先生も昨日の福住さんとのトークをすごく面白がってくださったのが嬉しいですね。

 

伊藤|もう時間をオーバーしていますが、最後にこれだけ言っていいですか? 福住さんの話ですごく面白いなと思ったのが、あの辞書みたいな本。

 

齋藤|岸政彦さん(※4)の『東京の生活史』ですね。

 

伊藤|それです。一般の人からインタビュアーを募って、その人がインタビューを受ける人をさらに選ぶんですよね。専門家じゃない「素人」の聞き手が話し手を選んでインタビューする、その関係性はアートコミュニケーターそのままだと思いました。岸先生のように専門性のある人が仕組みをつくり、さらに参加者自身がインタビューする人を選ぶ、その人から見える外側の景色を取り込んでつなげている。あの本の構造は、まさにアートコミュニケーターの構造そのもので、同じ考え方で事業設計がされているわけです。今回の「ひらくラジオ」でいろんなことが明らかになって、すごく楽しかったです。

 

 

齋藤|それは嬉しいですね。今回は「ぶっちゃけ、アートコミュニケーションってなに?」というタイトルを付けたように、本当にぶっちゃけてほしくて、このアートコミュニケーションというのが何のためにあるのかということをちゃんと伝えたかったんです。自分が思い描いているビジョンを実現していくだけではもう世の中は回らないし、どんどん衰退していくだけになってしまうので、アートコミュニケーション事業でやったことを戦略的に取り入れていってほしいと思います。さて、そろそろ時間ですね。皆さんのお話で、このアートコミュニケーション事業の意義を再確認できました。ということで、伊藤先生ありがとうございました。

 

伊藤|ありがとうございました。

 

齋藤|会場の皆さん、YouTubeをご覧いただいている皆さん、どうもありがとうございました。

 


(※4)社会学者、立命館大学大学院先端総合学術研究科教授。研究テーマは沖縄、生活史、社会調査方法論。


【プロフィール】

伊藤達矢(いとう・たつや)/東京藝術大学社会連携センター特任教授

1975年生まれ。東京藝術大学大学院芸術学美術教育後期博士課程修了(博士号取得)。東京都美術館と東京藝術大学の連携によるアートコミュニティー形成事業「とびらプロジェクト」および、上野公園内に集積する9つの文化施設を連携させたラーニングデザインプロジェクト「Museum Start あいうえの」では、プロジェクト・マネージャを勤め、多様な文化プログラムの企画立案に携わる。共著に『ミュージアムが社会を変える〜文化による新しいコミュニティ創り』(現代企画室)、『美術館と大学と市民がつくる ソーシャルデザインプロジェクト』(青幻舎)等。

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