ひらくラジオ④「ぶっちゃけ、アートコミュニケーションってなに?(後半)」ゲスト:伊藤達矢さん

SCARTSアートコミュニケーター「ひらく」1期生 卒業(仮)展

札幌文化芸術交流センター SCARTS(札幌市民交流プラザ1-2階)
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2022 02/26

2022 02/28

UP:2023/01/11

社会の中に必要な領域や環境を作るということ

 

齋藤|さきほど、プロジェクトは最初の設計図通りにつくろうと思わないことが大事、というお話がありましたが、僕は、人の反応から自分のリアクションを変えていくのが苦手なんですよね。

 

伊藤|人の反応と言っても「顔色をうかがう」という感じではなくて、例えば作品を作ったら僕は「どう?」って聞いてみたいんですよ。作品についてあれこれ説明したいとはあまり思いませんが、その相手との間に「何かつまんないよ」と率直に言える関係性があると、そこに気付きがあるわけです。でも、関係性ができていない相手からは何も言ってもらえない。プロジェクトも一緒で、自分が考えて出したものにいろんな意見をもらって、「そうか」と思ったり、「いや、実はこういうつもりだったんだけどね」と説明したり、そういうキャッチボールができる方が楽しいですよね。もちろん何を言ってもいいわけではないけれど、ひとつのプロジェクトの中で自分が思ったことを考えて、相手に伝えるということができた方がいいと思います。「対話による鑑賞」はそのベースになるもので、話し合う中で自分の考えの輪郭がはっきりしてきて、「自分はこう思っていたのか」という発見があったり。なかなか普通に働いている場面ではそういう話になりにくいんですよ、余計なことは言わない方がいいというか。

 

齋藤|今の社会では、無駄なコミュニケーションや時間がかかることが嫌われる傾向にありますよね。人材育成という話で言うと、いかに優秀な働き手になるか、労働者としての市場価値を高めていくかという視点で語られるような社会は本当にシビアだなと個人的に感じます。そういう状況でも安心できる領域というものが社会の中に必要な気がしていて、その一つがアートコミュニケーターなどのプロジェクトなんだと思います。

 

伊藤|よく「人材育成事業をやっているんですか?」とか、「アートコミュニケーターを育成しているんですか?」と訊かれることがありますが、全く違います。人材育成というと、次に育成した人材の活用という話になるんですよ。友達づくりに例えるならば、友達の活用を考える人はあまりいないし、考えた時点でもう友達じゃないですよね。僕は美術教育をやっていたので「対話による鑑賞」という言葉を知ってはいましたが、自分でファシリテイト(※2)したことはなかったんです。やってみると、自分の軸を持って考えることが大前提ですが、その後にやっぱり人の意見も聞いてみたくなるんですよ。出てくる反応がさまざまで本当に面白いですね。

 

 

齋藤|なるほど。

 

伊藤|ただ、人が育つということについて否定はしていないんです。例えば「DOOR Diversity on the Arts Project(※3)」という講座は、大学から認定を出す「履修証明プログラム」というフレームでやっているんですが、福祉と芸術について知識ゼロの状態から勉強しなきゃいけない、いろんな人と話してカリキュラムや事業体をつくっていかなきゃいけないとなると、すごく勉強することになります。自分の知識や経験値も上がるし、それはやっぱり誰と学ぶのか、どんな風にその学びと出会うのかということが大事です。例えば「DOOR」に集まったメンバーといろいろ話し合いながらやるうちに、「教えられる側」と「教える側」という二項対立の関係性ではなくなってくるんです。そういう学びの環境があって、結果的に人が育っていくという状況はいいと思いますね。

 

齋藤|育成と活用がセットになりがちなのは、やっぱり企業の社員教育がイメージされるからだと思うんですが、人が関わり合うことで連帯感を高められる、そういう意味での有用性はあると思います。要するに、何か経済的な目標があって、そのためにはこういう人材が必要だから育てましょう、ということではなく、いろんな人がいる社会そのものに価値があるということですよね。もうひとつ、常に社会が動き続けている状態をどうやってつくるかということがあって、その出会いの数や社会を構成している要素というのは多ければ多いほどいいんですよね。そういう社会を目指すことが、このアートコミュニケーション事業の本質なのではないかと思うんですよ。

 

伊藤|組織をつくっていくうえで、組織自体が更新していく仕組みのようなものをどうやって内在化させていくかがポイントですね。参加することによって更新されていく、お互いに更新し合える環境というのが大事です。例えば文化施設や文化事業で、誰かが考えたフレームを正しく実装できるように設計したとしても、それが今の時代のニーズとしてちゃんと成立するのかというと怪しいじゃないですか。やっぱり関わり合って対話をしながら、焦点や輪郭をしっかり見て、そこで求められていることとできることを合わせていくことが必要になるわけです。それに、お互いが更新し合える環境があると、新しい価値感も受け入れやすくなりますしね。

 

(4ページ目「文化施設や文化事業には対話の構造が必要」に続く)


(※2)集団活動を円滑に進め、成果が上げられるように導くこと。

(※3)「アート×福祉」をテーマに、「多様な人々が共生できる社会」を支える人材を育成するプロジェクト。

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