ひらくラジオ④「ぶっちゃけ、アートコミュニケーションってなに?(後半)」ゲスト:伊藤達矢さん

SCARTSアートコミュニケーター「ひらく」1期生 卒業(仮)展

札幌文化芸術交流センター SCARTS(札幌市民交流プラザ1-2階)
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2022 02/26

2022 02/28

UP:2023/01/11

「実践者」としてプロジェクトと向かい合う

 

齋藤|「とびらプロジェクト」は伊藤先生が発案したのですか?

 

伊藤|手本にしたものはありませんが、当然、自分ひとりでつくれるものではないので、みんなと話し合ってつくったというところです。東京都美術館のリニューアルオープンの時に、東京藝術大学と東京都美術館の連携事業を立ち上げることになって、試行錯誤しながら事業を組み立てました。

 

 

齋藤|アートコミュニケーション事業の本質を考えると、自分ひとりで物事をつくっていくのとは違って、他の人と関わり合う中で意見の対立が生まれたり、思い通りにいかなかったりすることも含めて「社会をつくっていく」ということなのかなと思います。事前に思い描いたビジョンがそのまま実現できることなんてほとんどなくて、多種多様な要素が複雑にこんがらがったりしながら物事が進んでいく。「とびらプロジェクト」を立ち上げる時も、そういうプロセスがあったのかな、と思います。

 

伊藤|この話、絵に例えるとわかりやすいんですよ。

 

齋藤|素材が面白い、みたいな話ですか?

 

伊藤|そうそう。乾く場所と乾かない場所で描いたものも違うし、この色は乾くとこのくらい褪せるんだとか、そういう状況でも違ってくる。だから最初の設計図通りに作ろうとはしないアプローチが大事だと思います。たとえば絵を描くときに、筆と絵の具でまっすぐな線を引こうとすると難しいんです。無理やりまっすぐにするのではなく、その素材が行きたい方向を理解すると絵が生きてくる。プロジェクトもそれと同じだと思っていて、マネジメントやディレクションをしていると自分が思うようにいかないことがたくさんあるんです。でもそれを修正するのではなく、現れた魅力に最初に気づくというのが最初の鑑賞者としての仕事です。絵でいうと、最初の鑑賞者は描いている自分ですから、その感覚がわかるというのが絵を描いていてよかったことのひとつです。

 

齋藤|美大受験にまつわるエピソードとして聞いたことがあるのですが、美大に入学した後の4年間でやることは、いかにデッサンの技術とか受験テクニックから脱却させるかだと言いますよね。

 

伊藤|よく言われるやつですね。

 

齋藤|今日のトークは「ぶっちゃけアートコミュニケーションってなに?」というテーマですが、これまでの美術のあり方から脱却することがひとつのポイントになるのではないかと思っています。

 

伊藤|そうですね。ただ、「脱却」というのは、きれいさっぱり忘れるということではなく、そこにあった本質をもう一度見つめ直すということだと思います。例えば僕も若い頃に石膏像を描きまくりましたが、それを忘れられるかというとできない。形を覚えれば、石膏像は見なくても描けるようになりますが、それでも毎回ちゃんと見ることが大事なんです。苦しいけど毎日描き続けなきゃいけないという受験前の状況から、入学してからは一点に集中していいものを描くという環境になるんですが、そこで肩の力がちょっと抜けて、自分の中から出てくるものを自然に描き続けるという状態に行き着けるのは、それまでの積み重ねがあったからです。だから受験でやってきたことは全くの無駄ではなくて、それがあったからこそ見えてくるものがあるんですよ。

 

齋藤|大学の先生というと研究をしているようなイメージがありますが、伊藤先生はとても実践的な活動をされていますね。

 

 

伊藤|そうですね。学芸員ではないし、研究者という意識でもないですね。まさに「実践者」という意識です。作品をつくることに関して実践している人をアーティストと呼ぶとすれば、プロジェクトを創造的なものとして考える実践者として、その事業に取り組んでいます。

 

(3ページ目「社会の中に必要な領域や環境を作るということ」に続く)

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