渡邊希さん(漆造形家)インタビュー

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2021 10/02

UP:2023/01/11


渡邊希《タイムドラベル》乾漆
©︎ NozomiWatanabe ©︎Fujiko-Pro

 

現在シンガポール国立博物館にて開催されている「THE ドラえもん展 SINGAPORE 2022」出品作品についてや、今後の制作スタイルについて教えてください。

「THEドラえもん展」の作品は、ドラえもんが恋人と思われるくらい夢中になって制作しました。世代を超えて愛され続けている理由は何か。キャラクターへの理解を深めるほど、愛おしくなったんですね。テーマが与えられていると進みやすいのか、無条件から生み出すより、そこからどうしよう?の作り方が、性に合っていると自覚した展覧会でした。「素材からの発想」をスタンスにものづくりしている自分にとっては、与えられた空間やテーマに対して、「漆でどう見せるか」という進め方は、同じような道筋なんですね。漆器も、実用という制約があるから同じ意識なんです。

 

私は自然環境に興味を持っているのですが、持続可能な社会へのメッセージとなるような作品はお考えでしょうか?

手仕事の魅力が重視され、持続可能な社会の創り手、担い手を育まれていくことを願っています。技術を受け継ぐ職人さん、材料を作る業者さん、植樹、漆を採取する掻き子さんなど、どんどん減っています。最新技術と融合するでも、現代に見合った様式にシフトしながら漆工芸の進化を重ね、継がれていって欲しいものです。こういう思いを伝えられたらと、規模が大きい案件ほど声を大にして、連携していく作品作りを提案しています。

 

縄文時代の漆製品が発掘されるなど、保存状態の素晴らしさや漆の美しさは、これからの持続可能な社会にぴったりの材料だと思います。

縄文時代には、漆の基本的な技術が既にありました。世界最古の漆製品は約9000年前の函館市垣ノ島B遺跡の副葬品です。福井県で約12600年前のウルシの木片まで発見され自生していた可能性も出ています。この流れがあって今の漆工芸があり、私もやらせていただけています。たまたま自分が惹かれる自然素材を選択したまでで「何かをし続けられるということ」のイコールが自分には漆でした。単純に自然素材そのものに目を向けていると、天然の強さを体感できるという原点回帰に過ぎないのだと思います。私にとって漆は圧倒的に美しく、末永く遺る強靭な塗膜であり、かぶれてしまう制作者以外には無害、そして、理解しきれない。この感覚は始めた時から変わっていなくて、これからも「漆とは何なのか?」を考え続けながら作っていくのだと思います。

 

お忙しいところ、色々とお話を聞かせていただきありがとうございました。縄文時代から延々と引き継がれている漆芸は、さらに大きな可能性を秘めて渡邊希さんによって新たに創造され、いま目標とされている持続可能な社会の象徴として大空を舞台に大きく羽ばたかれることを期待します。

 


渡邊希

漆造形家。1981年札幌市生まれ。東北芸術工科大学大学院芸術工学研究科芸術文化専攻修了後、青森県弘前市津軽塗師・松山継道氏に師事。乾漆で、漆のある空間を提案している。主な個展に、2014年スパイラルガーデン/東京、主なパブリックコレクションに、《さっぽろ創世スクエア》、《新ダイビル/大阪》、《全日本空輸VIPラウンジ/新千歳空港》、《大地みらい信用金庫/札幌》など。

http://nozomiwatanabe.com

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