【ひらくインタビュー】納谷真大さん(俳優・演出家・劇作家・ELEVEN NINES代表)
インタビュー
2021 10/02
UP:2022/03/31
札幌市を拠点として活動している演劇団体ELEVEN NINES(※1)代表で、俳優、演出家、劇作家として活躍する納谷真大(なやまさとも)さん。札幌の演劇シーンを牽引する納谷さんに、創作への思いをお伺いするとともにそのお人柄に迫りました。
・インタビュー日:2021年10月2日(土)、札幌市民交流プラザにて
・参加者:柏原、田中(麻)、平原、福野(SCARTSアートコミュニケーター)
『プラセボ/アレルギー』初演から10年 ─揺らぎから確信へ
柏原:2021年8月に拝見させていただいた『プラセボ/アレルギー』(※2)についてお話を伺いたいと思います。この作品は10年前に上演された際に大きく賛否が分かれたと聞きましたが、この度再演するにあたり、どうリメイクされたのでしょうか。
納谷:10年前、当時の札幌劇場祭に向けてエントリー作品の中で一番面白いだろうと思ってつくった作品でしたが、「面白くない」と言われた時はダメージが大きかったですね。その時の審査員から「あの作品は、納谷さんが4番でエースで監督って、どうなの」と言われ、それが僕にとって一生忘れられないダメ出しの言葉になりました。完成した作品ではなく、つくる過程について「何でそんな事言われなきゃいけないんだ」と納得できなかった。人に喜んでもらおうと思ってつくっているし、それが、プロとしての自分の決意だったので、作品に対しての批判や否定にはひどくダメージを受けました。
でも、その時の自分を今回の『プラセボ/アレルギー』が変えてくれたんです。今回のエントリーは、プログラムディレクターの斎藤歩さんから「本を面白く!」という条件で再演したのですが、現在の観客が10年前の作品とわかった上で見てくれるのか、そして今の状況に合わせて表現などを変えるべきか、細かい部分で悩みました。そんな時、TVディレクターで俳優の藤村忠寿さんに「納谷くんの話は、多分本当の事を言ってるけど、別に嘘でも本当でもどっちでもいいんじゃないの?」みたいなことを言われたんです。その後に、チラシに書いた『どれもがほんとで全部ウソ!』というフレーズが僕の中で生まれ、10年経った今も殆ど内容を変えずにやろうと決めました。
劇だから基本全部ウソですけど、あながちウソばかりでもなくて、僕たちの中の真実もあります。役者が役者として表現する事、演劇自体がそうじゃないかと思うんです。
そして、この言葉には、どこかに希望があって、決して嘘だからといって憂う必要はないんじゃないかと思っていて、僕は、まさにこの言葉に救われました。
福野:人間の裏の感情を露出した演出に、一緒に観劇した10代の娘が「大人になってもこういう感情を表に出してもいいんだね」と言っていました。演劇だからつくり物だけどその中にリアルを感じたのだと思います。
納谷:あぁ、嬉しい感想ですね! 演劇を観たことのない子供たちが「演劇ってちょっと面白い」、そう思うきっかけになればいいな、とほんとに思いますね。
田中:私は今回この舞台を視覚に障がいがある方と観に行きました。その方は「目では見えなくても泣いたり笑ったりと大いに楽しめた舞台だった」と言っていて、上演後に2人で感想を話し合うなどとても堪能することができました。
今後はそういった幅広い方々にお芝居を知ってもらいたいなどの思いはお持ちですか?
納谷:幅広い人に面白いと思ってもらえる作品をつくりたいということは常に考えています。ですから今のお話を聞いて、「目の見えない方にも僕の芝居は伝わるんだ、あぁ良かった!」と率直に嬉しいです。目が見えないことで見えることとは別の何らかの感覚を得られていると思うのですが、そのような方々にも伝わり、感動されるということは大きな喜びです。
昔から「うちのオカンが観ても面白いと思うものをつくる」という創作意欲はブレていませんね。それを常々念頭に置いて、たくさんの方が面白いと思うものをつくりたいなと思っています。
(2ページ目に続く)
(※1)ELEVEN NINES
札幌を拠点に活動する演技至上主義集団。富良野塾の卒塾生を中心に2004年に「演劇ユニット イレブン☆ナイン」を結成。演劇でしか表現できないもの、ライブならではのエンターテインメント性を追求しつつ、質の高い作品を生み出している。
(※2)『プラセボ/アレルギー』(舞台) ELEVEN NINES
札幌演劇シーズン2021-夏(公演日:2021.8/7(土)~8/14(土)、会場:生活支援型文化施設コンカリーニョ)