【ひらくインタビュー】納谷真大さん(俳優・演出家・劇作家・ELEVEN NINES代表)

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2021 10/02

UP:2022/03/31

俳優・劇作家・演出家それぞれの役割

平原:納谷さんの肩書には、俳優、演出家、劇作家とありますが、それぞれのスタンスで強く意識していることはありますか。

納谷:そうですね。29〜30歳頃に初めて書いた作品が賞をもらって、そこから脚本も書くようになりました。自己判断ですが、自分は、俳優としては、三流かもしれませんがプロフェッショナルだろうと思っています。演技演出においては、割と自信があってプロの領域かな、と。舞台演出はセミプロで、劇作家としてはアマチュアだと思います。書く時は、ホントにだめなんです。2日間ホテルに缶詰めして1行も書かずに戻って来たこともありましたからね。書く作業は才能がないと思ってるので、僕にとっては諦める作業なんです。それでも「書く」という苦手な作業をやることで、自分自身の何かを支えているのかなと思っていますし、歳を重ねた経験とともに、書く物がいくらでも面白くなる可能性を秘めていることも実感しています。本当は、戯曲を書かずに、「これをやりなさい」と言われて、それを演出するのが一番いいです。でも、もうこれだけ書いてきちゃっているし、オトンが死んだことなんかも、僕にしか書けない体験なので書かなきゃなとは思ってます。

平原:俳優、演出家、劇作家というそれぞれの役割をやることで、連動し合ってプラスになることがあると思うのですが、その点はいかがですか。

納谷:それはあります。物書きは辛いんですけど、その経験があるからこそ、俳優や演出家が何を求めているかがわかるところはあります。そういう意味では、積極的にやりたい訳ではないですけど、今後も全部やっていこうとは思っています。師匠には「僕は君が俳優をやる分には応援しようと思うよ。でも君が物を書くなんて、そんな『他業行ずべからず』」って怒られたことがあるんです。「能や歌舞伎に『他業行ずべからず』って言葉があるんだよ」って言うんですけど、どこを調べてもないんです。「役者のことだけ考えたって足らないのに、なぜ他のことをやるんだ。二足の草鞋なんて君には無理だ」という意味なのはわかります。「俺のために作った言葉なのか?」とも思いました(笑)。

コロナ禍を経て…

平原:昨今のコロナ禍によって、プレイヤーと観客がリアルに場を共有する舞台芸術の分野は様々な葛藤や課題を突き付けられたことと思います。この経験を通して納谷さんはどんなことを感じられましたか。また、今後の創作活動に、これらの経験が反映されるところはありそうでしょうか。

納谷:コロナ禍になって、一回、色んなことが中止になったんですよね。北海道が緊急事態宣言を出したので、ここ(札幌市民交流プラザ、クリエイティブスタジオ)で演らせていただいていた『虹と雪、慟哭のカッコウ~SAPPORO’72』が、3公演を残して中止になった(※3)。富良野塾の『屋根』という公演も、中止になった(※4)。そんな中で、「芝居ができないこの時間をプラスに変えよう」、「次のイレブンナインの舞台では、これまでになかった凄いものを創ろう」と意気込んでいました。そして、去年、『名もなく、貧しく、美しくもなく』を上演したんですけど、そんなに調子良くはいかなかったですね。今の経験をプラスに変えようと思っていても、だからといってプラスには変わらない。ただそれも僕はポジティブに捉えています。絶対にこれで新しい俺になるんだって思ってるのに、一個も新しくなれていない、何だったらちょっと退化したんじゃないかとも思う。でも、この駄目さ加減ってのが面白いと思うんですよね。とにかく、コロナというものが演劇に与えた影響は大きい。でも、このコロナ禍によって本物だけが残れば、札幌の観客の方々が育つし、それでいいんじゃないかとも思います。だから、自分も淘汰されないように必死になって本物を作っていかなければならないと思う。

平原:演劇に対する思いの強さみたいなものが残っていくということでしょうか。

納谷:やっぱり、ちゃんと才能のある人は別なんですが、才能のない人は身を削らないと人に感動なんか与えられる訳がない。僕は、残念ですが才能がなかったので、身を削って膨大な時間を犠牲にして費やさないと誰かに感動してもらえないと思っているんです。感動っていうのは別に泣かせるってことじゃなくて、ムーブ、つまり、観た人の何かが動く状態。人の気持ちを動かそうなんて、傲慢じゃないですか。でもその思い上がった気持ちを抱いている以上、自分が血を流さなければならない。

平原:コロナに関しては、まだ現在進行形ですよね。

納谷:そうですよね。まだ来年のこともどうなるのかわからないですし、この状況が続くならば、ちょっと休めばいいのかな、とも思います。プロデューサーからは、「納谷さん、この状況下でも我々は劇をやり続けますよ」って言われてるんですけど、劇団の運営として、しばらく大人数の芝居は作らない、無理はしないでおこうと思います。アウトプットばかりしてると枯れるので、ちょっと休みながらインプットしたい。来年、札幌演劇シーズンが10周年で、僕らは、『12人の怒れる男』という作品を「かでる2・7 かでるホール」で上演する予定です。そこに向かって創作をしつつ、来年、どうしようかなと考えています。

(4ページ目に続く)


(※3)『虹と雪、慟哭のカッコウ~SAPPORO’72』(舞台)All Sapporo Professional Actors Selection vol.1 (公演日:2020.2/20(木)~3/1(日)、会場:札幌市民交流プラザ クリエイティブスタジオ)  2/29、3/1⇒公演中止

(※4)『屋根 2020』(舞台)テレビ朝日開局60周年ドラマ「やすらぎの刻~道」放送記念 特別公演 富良野GROUP×鼓童 作・演出 倉本聰 (公演日:2020/4/3(金)~4/26(日)、会場:富良野演劇工房、EXシアター六本木 )  ⇒全公演中止

 

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