岡上淑子作品集「美しき瞬間」

『美しき瞬間: The Essence of Toshiko Okanoue 』岡上淑子

書籍
アートその他書籍絵画

2019 02/22

UP:2021/11/29

岡上淑子のコラージュ作品をご覧になったことはありますか。

岡上淑子は1928年高知県出身。美術を専門的に学んでいたわけではありませんが、22歳の頃から結婚するまでの約7年間、独自にコラージュ作品を制作していました。その間、作品を詩人で美術評論家の瀧口修造に見出され個展を開きますが、その後は目立った活動もなく、忘れられた存在になります。それが1990年代後半に再発見され、2000年に44年ぶりの個展が開かれたことで、再評価の機運が一気に高まり現在に至ります。

そうしたリバイバルともいえる状況の中で出版された作品集の表紙を、偶然書店の棚で見かけて、その奔放であると同時に気品を感じさせ、どこか孤高とも言うべき雰囲気を醸し出す作風に、私は魅了されました。

彼女の作品は、マックス・エルンストの「百頭女」を思わせるコラージュ作品ですが、一枚一枚に物語を感じます。そのメインテーマは、「女性」ということになるのでしょう。面白いことに、エルンストの「百頭女」にも女性のイメージが頻出しますが、それは男の欲望が生み出す妄想としての「女」。それに対して、岡上淑子がコラージュで作り上げた女の像は、より気高く高貴で、容易に世間になびくことを拒絶する故に孤独にも見えます。しかし、彼女たちは、それ以上に得られた自由を謳歌している。豪奢なドレス、大理石で彩られた西洋の大邸宅の居間、海や波など、女の像としてコラージュされるそれらのイメージが、貴族のような精神を持った女という存在を観るものに印象づけます。

その作品自体も、そして、素人が自分の楽しみのために始めたという創作のきっかけも、どこか貴人の純粋な遊びという、まさに浮き世離れした感のある岡上淑子の作品は、今後益々アート界の孤高の存在として、その愛好家を増やしていくことは間違いないでしょう。

鑑賞データ
「美しき瞬間」岡上淑子
(河出書房新社)

朝日泰輔

レポート

朝日泰輔