札幌交響楽団 hitaruシリーズ新・定期演奏会1月公演 鑑賞レポート
札幌交響楽団 新・定期演奏会 hitaruシリーズ[第3回]
2021 01/28
UP:2021/02/09
山田耕筰が日本人で初めてオーケストラの曲を作曲したのが1912年。そこから、百年以上という、決して短くない歴史があるにもかかわらず、武満徹など一部の例外を除いて、日本人作曲家の曲は演奏会で日の目を見ることがほとんどありません。コンサートで取り上げられないのには、演奏する側にも聴く側にも様々事情があるのでしょうが、良い曲がないから、という理由では絶対にないと私は考えています。
西洋と東洋を如何に融合するか、はたまた、日本人らしく日本的もしくは東洋的な音楽をどうやって創り上げるか、あるいは、それが普遍的なものだと信じて西洋の絶対音楽を書くか。この百年の試行錯誤の中で、ユニークで充実した曲が沢山書かれました。それは正に、埋もれた宝の山だと言えます。
昨年から始まった札幌交響楽団によるhitaruシリーズ新・定期演奏会に注目していたのは、「運命」や「新世界」といった名曲中の名曲と共に、滅多に聴けない日本人作曲家の曲がプログラムに取り上げられるからです。今回聴いた1月28日のコンサートでは、早坂文雄の「左方の舞と右方の舞」が演奏されました。
早坂文雄と聞いて、ピンと来る方は少ないかもしれませんが、黒澤明監督の「七人の侍」や「羅生門」の音楽を書いた作曲家です。また早坂は、幼少期を札幌で過ごした、この街所縁の作曲家でもあります。四十一歳という若さで亡くなってしまいますが、オーケストラを使って東洋的な音楽を描くことに苦心しました。その代表作の一つが、日本古代の舞楽を題材にした「左方の舞と右方の舞」です。
CDでは聴いたことがありましたが、私は生で聴くのは今回が初めて。まるで山深くにある神社の風景が浮かんでくるような、如何にも日本的な、と言うかアジア的な響きと旋律に溢れ、それでいてある部分では、朗らかで快活なリズムで曲が進む。一聴して心に残る曲だと言えます。また、札響の演奏は、どの楽器も音が柔らかく美しく鳴っていて、とても見事なものでした。
さてこのように、お目当ての一曲目で大満足だったのですが、この夜のコンサートはこの後がまた素晴らしかったので、それを続けて書きたいと思います。
二曲目は、ベートーヴェンの三重協奏曲。あの楽聖の曲にしては、これまた滅多に演奏されない曲です。理由は、ピアノ、ヴァイオリン、チェロと三人のソリストが必要だから。わざわざ三人揃えるのは大変なのですが、そのパートを今回受け持ったのが、海外のコンクールで優勝した実績を持つピアノ三重奏団、葵トリオ。自由奔放と言えるくらい伸びやかで胸のすくような快演を披露してくれました。因みに、トリオ名「葵」は、ピアノの秋元孝介、ヴァイオリンの小川響子、チェロの伊東裕、メンバー三人の名字の頭文字からだそうです。
そして、最後の三曲目は、ご存知ドヴォルザークの「新世界」。改めて生で聴くと、天下の名曲と言われるのには訳があるということを痛感させられます。やっぱり、いい曲です。しかし今回は、特に演奏がユニークでした。当初指揮をする予定だった札響首席指揮者のバーメルトがコロナのせいで来日できず、代役に立ったのが若干二十七歳の松本宗利音(まつもと・しゅうりひと)。若いので、現代風に洗練されたシャープな演奏をするのかと思いきや、オケからはズッシリと厚い響きを引き出し、随所でこぶしを効かせたような旋律の歌いまわしを聴かせる、なかなか個性的な演奏。しかし、この曲にはドヴォルザークがアメリカで耳にした音楽や民謡が盛り込まれていることを考えると、むしろこれが正解かと納得させられるような見事な演奏でした。「新世界」だけではなく、この夜のコンサートの素晴らしい演奏には、この若い指揮者の力が大きかったと思います。因みに、宗利音(しゅうりひと)という名前は、往年のドイツの名指揮者カール・シューリヒトにあやかってとのこと。未来の巨匠を目指して、頑張ってほしい。
ということで、滅多に聴けない曲から、名曲中の名曲まで、素晴らしい演奏で聴けるhitaru新・定期演奏会には、これからも通い続けることになりそうです。
因みに次回は、2月25日。これも札幌所縁の、北の大地が生んだ音楽の巨人、泣く子も黙る「ゴジラ」のテーマで有名な伊福部昭の曲が聴けます。
鑑賞データ
日時:2021年1月28日
場所:札幌文化芸術劇場hitaru
曲目:
早坂文雄/「左方の舞と右方の舞」
ベートーヴェン/三重協奏曲
ドヴォルザーク/交響曲第9番「新世界より」
演奏:
札幌交響楽団
葵トリオ
指揮/松本宗利音