札幌交響楽団11月定期演奏会 鑑賞レポート

札幌交響楽団 第632回定期演奏会

札幌文化芸術劇場 hitaru
その他音楽

2020 11/20

2020 11/21

UP:2020/12/05

11月20・21日の二日間、札幌交響楽団の定期演奏会が予定通り開催されました。コロナの感染拡大が続いているなかで、こうした演奏会が行われることに様々な意見はあると思いますが、私個人としては生涯忘れられない演奏会になりました。そのレポートを是非とも書きたいのですが、あまりに大きな感銘を受けたことで様々な思いや考えが浮かび、まとまった文章として書くことがなかなか出来ません。そこで今回は、この演奏会で感じたことをいくつか「キーワード」として挙げ、それにそった形でレポートさせていただきます。

「大編成」
これまで「密」を意識して、比較的小編成で演奏できる曲目が並んでいましたが、今回は大編成を必要とするマーラーの交響曲が取り上げられました。60名くらいで演奏する曲から、100名で演奏する曲にサイズが変わったとイメージすると分かりやすいと思います。コロナ禍でこれを実現するには、楽団と事務局が感染症対策で様々な工夫をされたはず。まずその努力に頭が下がります。普段であれば珍しくはない大編成も、それが久しぶりにステージに並ぶ風景はとにかく圧巻。もちろん見た目だけではなく、そこから響き渡る大音量に包まれると理屈抜きの感動を覚えました。

「マーラーの音楽」
19世紀末から20世紀初頭という時代の変革期を生き、死への畏れと生命の爆発的なエネルギーを表現したマーラーの音楽ほど、この不安な時代に相応しいものはないでしょう。実際、緊急事態宣言が出され外出を自粛していたとき、私は部屋でマーラーばかり聴いていました。そんな、マーラーに飢えていた心には、まさに待望のコンサート。しかも、メインで演奏されるのは、交響曲第5番。葬送行進曲から始まり、死に抗うような激しい音楽が続き、瞑想するかのような静かなアダージョを経て、勝利の喜びを圧倒的に歌い上げて終わる曲です。現代人の心を表現しているといわれるマーラーの曲の中でも、死から生へというストーリーを強く感じさせる、まさに今求められる音楽だと思います。

「藤村実穂子」
コンサートの前半は、マーラーの歌曲集「子供の不思議な角笛」から6曲が演奏されました。そこで独唱を務めた藤村実穂子さんの歌も素晴らしかった。よく通りながらも深い陰影のある声、どこか不気味な童話といった風情がある曲の雰囲気を見事に描き出す表現力。特に4曲目の「原初の光(原光)」という曲の冒頭、「おおバラよ、人は苦しんでいる」という、まるで祈りのような歌いだしを聴いたときには、涙を抑えることができませんでした。

「下野竜也と札響」
会場に入り、ステージ上のオーケストラの配置を見て驚きました。普段は舞台の上手側に位置することの多いコントラバスが、指揮者の正面一番奥にずらりと並んでいます。ウィーン・フィルが時々そうしますが、コロナ対策ではなく、純粋に音響的な配慮から、指揮者の下野竜也が指示したのでしょう。プログラムや演奏解釈に工夫をこらすマエストロらしいやり方に、開演前から期待が膨らみます。そうして始まった演奏は想像以上。巨大な曲を隅々まで整理して、各パートをバランス良く鳴らします。また、曲の聴かせどころではほどよいケレン味も見せ、最後は劇的なクライマックスを築き上げる。曲の魅力を余すことなく表現して、更に感動的な音楽に仕立て上げた、さすがの指揮ぶりでした。そのタクトに応える札響の演奏も見事。とりわけ管楽器が素晴らしい演奏を披露してくれました。

コロナ禍で、オーケストラは無くなってしまうのではないかと思ったこともあります。また、たとえコロナが収束しても、何事もリモートが普通になった世に中では、これまでのような演奏会は行われなくなるのではとも考えました。しかし、生でオーケストラを聴くことでしか得られない感動があります。この演奏会を聴いたあとで私は、オーケストラとその音楽は絶対に無くならないと確信しました。

鑑賞データ
日時:2020年11月21日
場所:札幌文化芸術劇場hitaru
曲目:
マーラー 歌曲集「子供の不思議な角笛」より
マーラー 交響曲第5番
演奏:
下野竜也(指揮)
藤村実穂子(メゾ・ソプラノ)
札幌交響楽団

朝日泰輔

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朝日泰輔