『絵画の写真的経験』からのタイムスリップ         小西家の間を再訪して

絵画の写真的経験

HOKUBU記念絵画館
アート

2020 03/12

2020 07/19

UP:2020/12/04

3・2・1…「人間の視野は、スピードと比例して狭くなる」

その事実を確かめるべく、母を連れ、区内のHOKUBU記念絵画館を訪れた。札幌の実業家が1996年に設立した、誰かに伝えたくなるアート空間だ。オーナーを知る私たちにとって、そこは熱血かつ情に厚い会長さんが一途な想いから建立した一家の別宅なわけだが、会長夫人が精力的に老人ホームの入居者たちを誘い出してきた場所でもあり、一般的にはCSRと捉えられている。早世した私の父は、何かにつけてこの夫妻にお世話になったようであるが、オーナーと息子館長の父子はともに芸術肌で、美の求心力をピュアに信じてこられた。館の経営は「心の村づくり」*の一環らしいが、平成22年に財団運営となり、学芸員館長まさゆき氏と氏が敬愛する写真家の二人が都度思考を凝らした展示でゆったりと来館者を迎える。

コロナの影響を受け、今年度より時間別貸切予約制のもと「世界一衛生的な美術館」を目指すとあるが、作品とじっくり向き合えるのは、スリッパに履き替えて鑑賞するこの館ならでは。プライベート志向と思いきや、美術史や芸術学的な観点からも広くコレクションし始めた点に注目したい。小西家の間には、親と子の血縁以前に「個と個」としての信頼があり、私はこの絵画館を訪れるたび“対等な時間”と“父子”について思いを巡らす。そして、オーナーと父が背後のソファーで談笑する気配を感じながら、私は作品の前に立つ。今回の展覧会の「絵画が何を描かなかったかという問題」とは、作家と鑑賞者、あるいは第三者間の対話と想像力のことなのか。シャッタースピードがギリギリのところまでコントロールされた『カルヴィーノ』にピントを当てたとたん、私の中のピストル音がさく裂した。

隠れ家的HOKUBU記念絵画館の、加藤八州コレクションはもちろん、書籍コレクションもかなりの見応えがある。画集から漫画本まで揃っている、時間を忘れそうなミュージアム・ライブラリーだ。博物館や美術館にある図書室には、本というよりも愛があるのだとよく思う。

註* 小西政秀・梶田博昭『競存共栄の資本論 理想社会をデザインする』地域メディア研究所2012.1

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