フランス人とバカンス

エリック・ロメール「緑の光線」

映画
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UP:2020/12/15

©︎1985 LES FILMS DU LOSANGE-LA C.E.R.

私たちの日常はコロナ禍で様変わりし、この夏お盆の帰省を控える人も少なくなかった。一方フランスではロックダウンが解除されるやバカンスで賑わったという。そんなニュ-スを耳にして、あせないバカンスの魅力は何なのかと思った。

「緑の光線」はバカンスに理想の幸福を求める映画である。主人公は楽しみにしていたギリシャ旅行を友人にドタキャンされてしまう。物語は彼女の日記を見るように右往左往の日々を追っていく。ネガティブ思考で不器用な彼女は実にやっかいだ。好意で誘われた家では、つい些細な事に過剰反応してしまい何となくいづらくなる。次は一人で海へ山へと出かけてみるが、溢れる太陽の光は惨めさを増すばかり。結局どこにも馴染めず泣きじゃくる。もはや理想のバカンスはプレッシャーとなり、ますます落ち込むのだ。対照的にバカンス風景が明るく穏やかで心地よい。きらめく海の輝きや爽やかな風、水着姿で思い思いに寛ぐ人々。その中に孤立する彼女はいっそう浮き立って見え、迷子のようにうつむく姿が痛々しい。

実際フランス人はバカンスをどう思うのか気になった。ある男性に聞くと、バカンスは生活にリズムをつくると言う。非日常を味わいながら、家族や友人とゆっくり語り合う。そして新たな出会いに心つなぐことも大切なのだと教えてくれた。目的はのんびりするだけでなく、バカンスにも人とのつながりを求めているのがわかる。フランス人は個人主義とも言われるが、実はコミュニケ-ションをとても大切にしていると感じた。バカンスが生活に彩りを添え、フランス人は豊かな時間を謳歌しているのだ。

映画の最後に主人公は飛び切りの笑顔を見せ、緑の光線が幸福の象徴として描かれる。フランス人にとってバカンスこそ充実した人生の象徴なのだろう。思えばコロナ禍が続きこれまでのびのびと深呼吸することすらなかった。家族や友達との絆、そして幸福を求め人生を楽しむことの大切さを思った。


エリック・ロメール コレクション
緑の光線
発売元 紀伊國屋書店
販売元 紀伊國屋書店
価格 ¥4,800+税

藤田倫子

レポート

藤田倫子