演劇「名もなく貧しく美しくもなく」 鑑賞レポート
イレブンナイン2020新作本公演「名もなく貧しく美しくもなく」
2020 09/09
|ー2020 09/14
UP:2020/11/05
脚本・演出 納谷真大氏による演劇「名もなく貧しく美しくもなく」が、札幌市の劇場で公演された。
ある街に「最果て地区」と呼ばれる、行き場をなくした人々の集まる公園がある。そこで生まれ育った少女が、10年後、女優として成功するが、週刊誌に彼女の生立ちばかりか、自分の父親が娘の体を見世物にして稼いでいた事実も暴露されてしまう。彼女の過去を話したのは誰か…お金への執着、それぞれの欲望。父と娘、仲間との感動ストーリーだが、人間の心の闇の部分も多く描かれている。
ギター生演奏から自然な流れで出演者が次々登場し、謎めいた会話が始まる。「最果て地区」では独特の言語が使われていて、何を言っているのか、わかるようでわからない。異国感漂う不思議な言葉で話す。その為、字幕で翻訳が映し出され、観客は目も耳もフル回転だ。それにしても、あのハリのある納谷氏の声の迫力に、あっという間に舞台に惹きつけられていた。
全般的に「笑い」に溢れた作品でもあった。冒頭で出てきた青年が、お笑いの「三四郎」の小宮氏に似ていたり、「最果て地区」との架け橋役のカズヤンは、現在の首相、菅氏に微妙に似ていた。役名も「ダイスケ」&「ハナコ」のカップル。「文春」と書き「フミハル」と読む週刊誌記者。芸能プロダクションの「ワタベ」と「ノゾミ」、そして「コジマ」もいる。警察官のキャラクターも際立ち、喧嘩シーンの本気の叩き合いもウケた。コミカルな演出で会場からは笑い声が漏れていた。
最後の舞台挨拶で出演者全員が登場した時、主人公の東李苑氏だけが楽しそうに笑っていたのが印象に残った。コロナ渦を感じさせないその微笑みは、人間はたとえどんな状況でも、いつかは明るい未来に向けて笑顔になれると語っているようだった。会場は十分なコロナ対策が行なわれ、脚本には最近話題のニュースが面白く散りばめられていた。まさに「今」を感じる公演だった。