「hitaruでシネマ・ミュージック!」鑑賞レポート 

北海道応援コンサート~hitaruでシネマ・ミュージック!

札幌文化芸術劇場 hitaru
音楽

2020 11/03

UP:2020/11/05

エーリッヒ・コルンゴルトという作曲家がいました。1897年生まれ、10代の頃からその才能をマーラーやR・シュトラウスといった大作曲家たちから絶賛され、「神童」と謳われた天才。1920年発表のオペラ「死の都」は欧州で空前の大ヒットとなり、当時存命する最高の作曲家という評価まで得ます。しかし、ユダヤ人であったことから、1938年のナチス・ドイツによるオーストリア併合後はアメリカに亡命、ハリウッドでの映画音楽の作曲が主な活躍の場となります。そこで、アカデミー賞を二度受賞という栄誉を得るものの、1957年に没した後は、「映画音楽」の作曲家とみなされ、クラシック音楽の世界では忘れ去られた存在になります。しかし、近年は作品の再評価が進み、ドイツ・ロマン派音楽の継承者として、オーケストラの演奏会でその作品が度々取り上げられています。

このコルンゴルトの評価をめぐるエピソードを、私はとても興味深いものだと思っています。この話は、同じ音楽というジャンルの中にも「格差」があったという事実を物語っています。西洋の伝統的な「クラシック音楽」に対する映画音楽、つまりは、「メインカルチャー」と「サブカルチャー」という対立です。その対立の中で、クラシックが上で、映画音楽が下という位置づけがされていたことは言うまでもないでしょう。しかし、現代においては、そうした「格差」は無くなりつつあると言えます。コルンゴルトの再評価が正にそれを物語っていますし、また今年、「スター・ウォーズ」の音楽で有名なジョン・ウィリアムズがウィーン・フィルを指揮した自作のCDを出し、ベストセラーになったこともその一例でしょう。そうした映画音楽やポピュラー音楽を主体にしたコンサートを、世界中どのオーケストラも開催しているのは、もちろん「集客狙い」という側面は否定できないものの、音楽に対する価値観の変化を捉えてのものだと思います。

11月3日にhitaruで行われた、札幌交響楽団の「シネマ・ミュージック!」というコンサートに行ってきました。名作映画を彩った名曲の数々による、休日の午後に相応しい華やかで寛げるプログラム。しかし、耳を澄まして聴くと、どの曲も作曲家が腕によりをかけた作品であることがわかります。「ムーン・リバー」や「ニュー・シネマ・パラダイス」の楽曲におけるヘンリー・マンシーニやモリコーネの旋律の美しさ。「ミッション・インポッシブル」のテーマでのラロ・シフリンのリズム感。映画を観たときの興奮が、わずか数分の音楽で蘇ってきます。そして、「スター・ウォーズ」のテーマなどは、これはもうドイツ・ロマン派の音楽はハリウッドに受け継がれたと言いたくなるような、管弦楽の輝かしい響き。尾高忠明指揮による札響の素晴らしい演奏もあって、大満足な演奏会でした。

さて、こうした名曲名演の素晴らしいコンサートを聴いた後に、私から提案があります。もし、このコンサートに満足された方で、札響の定期演奏会に行ったことがないという方がいらっしゃいましたら、是非次回お聴きになりませんか。11月の定期演奏会は同じくhitaruで行われます。敷居が高い、難しそうだと思われるかもしれませんが、演奏家の方では、音楽の「垣根」を払い、素晴らしい演奏を披露してくれたではありませんか。音楽という文化が大切なものだとお考えなら、また何より、もっと広く音楽を楽しみたいとお思いなら、一歩足を踏み出しませんか。「スター・ウォーズ」からマーラーまでは、案外遠くないと思います。演奏家もがんばってますから、我々鑑賞する側もちょっと好奇心を出そうじゃありませんか。いかがでしょうか。

鑑賞データ
日時:2020年11月3日
場所:札幌文化芸術劇場hitaru
演奏:札幌交響楽団
指揮 尾高忠明

朝日泰輔

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朝日泰輔