映画「すばらしき世界」鑑賞レポート

すばらしき世界

映画
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2021 02/11

UP:2021/02/26

「なんで戦ってぶちのめすしか策がないと思うんですか。逃げるのも立派な解決手段ですよ」
(西川美和(監督)、2021、『すばらしき世界』、ワーナー・ブラザース映画)

 

「すばらしき世界」の主人公、三上正夫は13年の刑期を満了し、新たな人生をスタートさせようと東京で職探しを始めます。三上はとにかく正義感が強く、曲がったことが大嫌いな男。「こうあるべき」と思ったことをすべて行動に移すため、刑期中も出所後もいろいろな面倒を起こします。

 

冒頭のセリフは、三上の社会復帰の様子を取材する元テレビマンの津乃田が、三上に対して怒りまじりに語った言葉です。忖度したり自分の身を守るために見て見ぬふりをしたり、ということを一切知らずに生きてきた三上。彼の姿を見ていると、正義感を貫くことと社会にフィットすることが決してイコールではないことを思い知らされます。

三上の周囲の人々は驚くほどに親切で、瞬間湯沸かし器のような三上を見捨てることなく根気強く付き合います。世の中捨てたものではない、この世界は素晴らしいと思う一方で、三上と社会との関係を目の当たりにすると、この「すばらしき世界」というタイトルに、ちょっとした皮肉めいたものを感じてしまいます。

 

映画を観る前に、この作品の原案となった佐木隆三のノンフィクション・ノベル「身分帳」を読みました。本を読んでから映画を観ると、西川美和監督が「身分帳」のどこに感銘を受け、何を伝えようとしているのかが手に取るようにわかります。佐木氏は実際に三上正夫(佐木氏の小説では『山川一』という仮名が使われています)のそばでその社会復帰を見つめ、支えたり、迷惑をかけられたりしながら小説を完成させました。そんな佐木氏へのリスペクトが、映画の随所から感じられました。

 

小説の中でも映画でも決してドラマチックなことが起こるわけではありません。それでもなぜか、ただただ日常を生きる元受刑者の物語に感銘を受け、勇気をもらいました。


『すばらしき世界』全国公開中
配給:ワーナー・ブラザース映画
©佐木隆三/2021「すばらしき世界」製作委員会

大澤香織

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大澤香織