【Creative Opera Mix Vol.2】髙橋秀典氏インタビュー

Creative Opera Mix Vol.2 LOVE & TRAGEDY

札幌市民交流プラザ3Fクリエイティブスタジオ
オペラその他特集音楽

2021 03/13

2021 03/14

UP:2021/03/12

「ワルキューレの騎行」に爆撃音が入っている理由

平原:Creative Opera Mixは今年が第2回目となりますが、昨年の上演内容から新たに変化した点、特に今年はここに注目してほしいという点はどんなところでしょうか。

髙橋:2年目の今回は、「LOVE & TRAGEDY」、つまり「愛と悲劇」というテーマを設定してします。1年目の公演は、『カルメン』という古典的なオペラの演目をフィーチャーし、それを現代風にアレンジするというコンセプトだったのですが、2年目はもう少しテーマ性を持たせることにしました。オペラの名曲をみていくと、男と女の愛や、悲劇的な結末を迎えたりするものが圧倒的に多いんですよね。それを知って欲しいということがまずひとつあります。当日は曲の解説を観客に配りますから、ストーリーや、「この曲かっこよかったな」ということをきっかけにして、各楽曲やオペラ作品のことを知るきっかけとなり、また劇場に足を運んでいただくきっかけになればと思っています。また、去年の公演は前半が音楽の演奏だけだったのですが、今年は全編ダンスを散りばめているのも特徴です。

佐々本:オペラの曲の中から、皆さんに耳馴染みのある有名曲を選ばれていますが、選曲のポイントはどのような点でしょうか?

髙橋:今回のプログラムの中で、特に入れたかったのは「ワルキューレの騎行」ですね。本当は昨年も入れたかったのですが、間に合わなかったという経緯がありました。この曲は、『地獄の黙示録』という映画で、ヘリの操縦士が「Shall we dance?」と言った後に爆撃するシーンで使われています。なので、曲の冒頭に「Shall we dance?」という録音を入れたり、最後に爆撃音を入れていたりと、細かい仕掛けを取り入れています。

あとは『道化師』の中の「衣装をつけろ」という曲ですね。今回バリトン歌手の大久保光哉さんに出演してもらうのですが、Vol.2の決め曲にしたかったというのがあります。また、『天国と地獄』の序曲も入れたかった曲です。この曲は本当はもっとヒップホップに近いアレンジだったのですが、ダンサーから「もう少しハードな方がいい」という声もあがり、仕上がりを変えたという経緯があります。

『ローエングリン』の「婚礼の合唱」という曲もプログラムに入っています。これは日本では結婚式でよく聴くイメージのある曲なのですが、音楽学者の三宅幸夫さんによると、この曲は「悲劇的結末を予感させる性質を持った音楽」で、実際に劇中においてもこの場面で結婚した2人は別れてしまうんですよね。ですので、今回の公演では途中で急展開して曲調を変化させています。こうした、ストーリーに応じたアレンジも工夫しています。

舞台衣装で表現した「カルメン」の二面性

杉谷:昨年のCreative Opera Mixのダイジェスト動画を見たのですが、服装や照明なども華やかで目に楽しかったです。演者の皆様の服装や舞台照明、舞台装飾や小道具などをどのように決めているのか知りたいです。

髙橋:グランドオペラなどの場合には衣裳係がいるのですが、Creative Opera Mixの場合は曲調に合うものを考えました。例えば「カルメン」の象徴である赤い衣装は最初に作ったのですが、先ほど話したようにSHOKOさんは悪いカルメン、川島さんは清楚なカルメンという二面性を表現したかったので、それぞれ黒い衣装と白い衣装を作りました。また、バリバリのロックテイストにアレンジした曲に合わせてビカビカの服を川島さんに探してもらったり、ガイコツマイクを用意したり。照明も、ロック調の曲の時にはビカビカに光らせたり、クラシック調の時には、後ろのスクリーンに神秘的なイメージを映したりしています。川島さんもとても積極的で、「こうしたら良い」ということをどんどん提案してくれました。アイデアを持ち寄って少しずつ形にしていきました。

大澤:今回の公演では本番に先立って、1月18日に関係者向けのコンサートが開かれました(※4)。SCARTSアートコミュニケーターも参加し、本番で演奏する曲を聴かせていただきました。関係者向けに完成前の制作プロセスを見せることにはどんな狙いがあったのでしょうか。

髙橋:一番の狙いは、音楽の完成度を高めるということです。先ほども言った通り、楽曲が完璧に完成していないとダンサーが踊れないということが昨年の反省としてありました。そこで、実際に観客が入って演奏する機会を作ることで、そこまでに楽曲のアレンジを完成させることにしました。

もうひとつは、第三者から客観的な視点で意見をもらい、作品にフィードバックしていくことですね。制作チームだけで目標に向かって突進していくと、周りが見えなくなってしまうんですよね。例えば、今回DJで参加するTAMAさんは普段はKINGXMHU(※5)のようなクラブで演奏しているので、迫力のある音づかいが持ち味だし、音量も大きめ。制作チームはみんな耳が慣れてしまうのですが、普段クラブに行かない人やクラシックに親しんでいる人にとっては爆音だったりする。こうした客観的なチェックを入れていくことで、僕たちが見えていないことが見えてくることを期待しています。

1月18日に行われた中間発表の様子

 

田中:Creative Opera Mixは今年で2回目ですが、昨年開催された1回目では、プログラムの後半は『カルメン』の曲目だけに絞った編成になっていました。同じ時期にhitaruで開催されたグランドオペラ公演『カルメン』に合わせてのことだったかと思います(※6)。今年のプログラム編成は様々な演目が混ざったオムニバス形式になっていますが、前回のように、他のグランドオペラ公演を別解釈したプログラムを観てみたかった、という気持ちがあります。

髙橋:とても鋭いご意見です。おっしゃる通りで、2年目の今回も、ひとつの作品をフィーチャーしてプログラムを組むことを考えていた時期もありました。ただ、Creative Opera Mixは3年をひとつのクールとして考えていて、1年目と2年目で別のことをやることにしたんですよね。というのは、来年実施する3年目は会場が変わり、これまでのクリエィテイブスタジオではなくhitaruで公演を行ないます。そこで、1年目と2年目を合体させたような内容にすることにしています。田中さんのような熱心なリピーターの人にも面白いと思っていただければと思っています。

(3ページ目に続く)


※4:関係者向けのコンサート
2021年1月18日に、関係者向けにコンサートが開催され、Creative Opera Mix Vol.2の曲目が演奏された。

※5:KINGXMHU。
すすきのにある、札幌を代表するナイトクラブ。

※6:hitaruで開催されたグランドオペラ公演『カルメン』
2020年1月25日(土)・26日(日)の2日間に渡って開催された。1回目のCreative Opera Mixはその後、2020年2月15日(土)、16日(日)に開催された。

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