【Creative Opera Mix Vol.2】髙橋秀典氏インタビュー

Creative Opera Mix Vol.2 LOVE & TRAGEDY

札幌市民交流プラザ3Fクリエイティブスタジオ
オペラその他特集音楽

2021 03/13

2021 03/14

UP:2021/03/12

活力のある劇場を目指して

中川:このイベントを企画する上で、様々な音楽に関する調査なども行ったとは思うのですが、具体的には、どのような分野の表現から影響を受けたのでしょうか。

髙橋:Creative Opera Mixのためにやったことは、『カルメン』を聴きまくったくらいなんですよね。それ以外の部分は、僕がこれまでの経験の中で得たものから成り立っています。

例えばクラシックならば、僕は2000年から2006年まで、札幌コンサートホールKitaraというクラシックコンサートホールに勤務していました。またその間、東京にある「一般財団法人 地域創造(※8)」という組織に出向しましたが、ここでもクラシック音楽に関わる仕事をしました。また、ジャズについては、「サッポロ・シティ・ジャズ」というイベント運営に11年間関わっていましたし、東京に行ったら必ずBLUE NOTE TOKYO(※9)に立ち寄り、世界有数のアーティストの演奏を聴いていました。また、個人的にロックも好きで、ロックフェスに行ったり、バンドでボーカルをやりながら曲を作ったりしていました。

こんな風に、ここ20年間音楽に関することばかりしていました。ですから札幌にいる優れたミュージシャンの演奏を聴く機会は多かったですし、自分でも曲の構成とか細かいこともできる。だから、誰に声をかけるとどういう演奏ができるかというのも分かっていました。また音楽以外にも、東京に住んでいた時にはコンテンポラリー・ダンスも歌舞伎もミュージカルも美術館等にも頻繁に通っていたので、色々なジャンルの表現が僕の中にインストールされているんですよね。

「統合モデリング」という考え方があります。「モデリング」というのは、誰かメンター(師匠)について、それをモデルにして模倣をすることです。でも、3~5人くらいのモデリングを組み合わせる(=統合する)と、それはただの模倣ではなく、オリジナルなものになるんですよね。ですので、今回は人のモデリングではなく、僕の中に既にインストールした様々な音楽やアートのコンテンツのデータベースのようなものがあって、それを統合してCreative Opera Mixという形になった、ということかと思います。

例えばクラシックは再現性の音楽なので、楽譜通りにいかに完璧に演奏するかということが前提です。しかし、ジャズは対照的にインプロヴィゼーションといって、その時にしか見られない即興演奏が魅力です。そういう、色々なジャンルの感動的な場面を全部ミックスしたらどうなるのか、というのが今回の企画です。

鶴羽:髙橋さんがプロデューサーとして大事にされてきたことはありますか?

髙橋:「人がやらないことをやる」ということですね。経営戦略論の用語で「ブルー・オーシャン戦略」というものがあります。対極のレッド・オーシャンは、例えば居酒屋を経営する人が他店よりもビールの値段を1円安くするという風に、既存の事業領域の中で血みどろの競争をしていくことを指します。これに対してブルー・オーシャン戦略というのは、誰も手をつけていないニッチな領域に市場を切り開くことを指します。僕は常にブルー・オーシャンを狙いつつ結果にフルコミットすることで、自分を含めて関わった人みんながハッピーになって成功できればと考えています。

佐々本:昨年も今年も、hitaruのグランドオペラ公演が終演してからCreative Opera Mixが公演になっていますが、公演の時期には何か背景があるのでしょうか?

髙橋:これは鋭い質問ですね。グランドオペラや大規模なバレエ公演は大体9月から11月くらいにやるのですが、これは「芸術の秋」だからですね。それが終わると、東京や海外からオペラ公演を呼べなくなります。雪で飛行機が飛ばなくなる可能性があるからです。オペラをやるには200人くらい呼ばないといけないのですが、1泊1人1万円だとしても、200万円かかりますよね。雪で渡航ができなくなった場合、これが全て無駄になるのでリスクが大きすぎます。こうした理由から、グランドオペラ等のような大規模な公演は雪が降る季節の前までに実施するようにしています。また、自分たちで制作するCreative Opera Mixのような事業は、ゼロからクリエイションしていくので制作に時間がかかるため、年度末の2月~3月くらいの時期に公演日を設定しています。自分たちで公演を作るのはかなり大変なのですが、最大限できることをやっていきたいんですよね。

hitaruは札幌市が作ったものですが、このように、国や自治体が設置する劇場は「公共ホール」と言います。公共ホールは「死んでるホール」と揶揄されることもあるのですが、音楽事務所やプロモーターが作った公演を何千万円か払って買い付けるだけで公演プログラムを組んでいるということへの批判が一般論としてあります。「カタログショッピング」のようなプログラムばかりで、その地域の個性が死んでしまっている、という批判です。これまでにhitaruが行なった『アイーダ』や『カルメン』といった公演では、他の施設と共同制作をしていて、hitaruの担当者が演目や指揮者のセレクトに関わってはいるものの、完全にゼロから作ったものではありませんでした。

ただ、鑑賞者にとっては、どこが主催者で誰が制作したのかということは、あまり関係がないと思います。重要なのは、買い公演か、作り物公演にかかわらず、良い公演をお客様に届けることです。ですから、この公演を札幌でも見て欲しいという公演があれば買い公演でも実施する意味があると思いますし、より活力ある劇場になるためには、劇場の主催事業としてセルフプロデュースしていく事業も必要だと思います。

買い公演も含めより良い公演をお客様に届けること。そして、劇場のセルフプロデュース能力を高め、hitaruで創造する事業も面白いと思ってもらえる事業を創っていくこと。大事なのは、状況に応じてこれらのバランスを総合的に取りながら、劇場を運営していく感覚だと思います。

Creative Opera Mixや、今年度立ち上げる「hitaruオペラプロジェクト」などは、まさにhitaruだけのオリジナルで制作をしていくことを意図しています。hitaruの予算や、ホールのスケジュールなどを鑑みると、我々が制作できるオペラやバレエは年間1・2本できるかどうかというところです。こうした状況ではありますが、可能な限りオリジナル作品の制作には取り組んでいきたいと考えています。

(了)

©︎定久圭吾(doppietta)

※8:一般財団法人 地域創造
1994年に創立。「文化・芸術の振興による創造性豊かな地域づくり」を目的とし、地域における文化・芸術活動を担う人材の育成や、公立文化施設支援のための事業を行っている。

※9:BLUE NOTE TOKYO
東京・南青山にあるジャズクラブ。ニューヨークにある”Blue Note”を本店とし、1988年にオープンした。


髙橋秀典 1974年生まれ。公益財団法人札幌市芸術文化財団 市民交流プラザ事業部 劇場事業課長 チーフプロデューサー。2000年~04年、06年に札幌コンサートホールKitaraで主催事業の企画を担当。05年、一般財団法人地域創造に派遣となり、芸術環境部副参事兼ディレクターとして主に音楽活性化事業や市町村長・公共ホール職員向けの研修事業などを担当。音楽活性化事業では年間100日近く出張し、全国の市町村でアウトリーチ事業に従事した。07年から札幌芸術の森に配属され、事業課で11年間勤務。07年からスタートしたサッポロ・シティ・ジャズのチーフディレクターとして現場責任者を務めた他、アーティストブッキング、ファンドレイジング等を担当。15年~17年にはサッポロ・シティ・ジャズ パークジャズライブコンテストの審査員も務めた。11年間で、協賛金・助成金の取得額4憶3千万円を達成。札幌ジュニアジャズスクールの事業全般のほか、オフブロードウェイミュージカル「I Love a Piano.」の海外招聘事業、「CREATIVE OPERA MIX」など様々なパフォーミングアーツ事業のプロデュースを担当。その他、公益財団法人音楽文化創造主催の地域音楽コーディネーター養成講座の講師を務める。

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