【ひらくインタビュー】納谷真大さん(俳優・演出家・劇作家・ELEVEN NINES代表)

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2021 10/02

UP:2022/03/31

札幌から一番面白い芝居を

平原:そこに続く質問なのですが、納谷さんは北海道に軸足を置きながらも、道外でも活動されていますよね。札幌の演劇シーンにおける課題や自分自身が今後やっていきたい活動の展望などはありますか。

納谷:僕は、妻と結婚することになって東京から富良野に行き、そこから札幌に来ることになった。抗いようのない運命の流れで、札幌でものをつくることになったけれど、札幌は創作には環境が良く、地方にいることがそんなにマイナスになっていない。僕はいつも札幌から世界で一番面白い芝居をつくりたいと思っています。東京や世界に打って出ていく力がないから札幌で芝居をすると考えるのは、なんかちょっと違う。こじんまりとは納まりたくないですね。実際にできてはいないかもしれませんが、志だけは強く持っています。

柏原:10年程前の対談番組の中で、札幌の役者を育てる目的と役者以外の方へ広く演劇を知ってもらう活動としてワークショップをされていると伺いました。経験を重ねて来られた現在、当時の納谷さんの想いから変化はありましたでしょうか?

納谷:やっぱり人を育てるのは、なかなか難しいです。今でも育てたいと思っていますが、ただ創作に影響が出ない程度にやろうと思ってます。「他業行ずべからず」で(笑)、本気で育てようと思うなら俳優をやめないとできない。「俺の背中を見てついて来い」と言って、僕について来る奴はいないし、結果としてプロになるような人は、俺の背中を見なくても育ちます。結局悩むのは、ほとんどの人が諦めた方がいいよってことです。うちの劇団員のほとんどが、みんな僕から「やめてくれ!」って頼まれてますよ。

柏原:(笑)。

納谷:「お願いだからもう役者やめてくれないかな。無理だよ。プロにはなれないよ。努力していないんだから」ということを言い続けています。今は、育てたいとは思うけど、育てられる自信がないです。これから『こちょうのゆめ、みたいな』という、去年中止になった芝居を中高生たちと作るんですけど、「育てよう」なんて傲慢な気持ちはないです。その子たちと一緒につくって、僕が何かを得ようとすると、その子たちも何かを得てくれるかもしれないという考えに変わりました。10年前はもうちょっと大上段に構えて夢を見ていたのかもしれないですけど、教えるとか、育てるとかという考えが、傲慢だったのかなと痛感しています。 うちの劇団へ入ったからには首は切らないですけど、「まず無理だよ。役者にはなれないよ。やめたほうがいいよ。何だったらやめてくれないかな」って頼んだりします。やめないですけどね、みんな。

平原:札幌という地で創作を続けつつも、グローバルに志を持つことを意識されているんですね。

納谷:今年5~6月に、東京で『夜は短し歩けよ乙女』という作品をやったのは刺激的でした(※5)。東京の第一線の人たちと共演したり、演出を受けると今の自分の立場もわかるし、演劇の現状もわかるし、もちろん東京だってこの程度かって思うこともなくはない。広い世界の中で、ここ札幌で演劇をやってるという意味を、もう一度考える機会になりました。

次回作『ひかりごけ』(※)

平原:この作品でぜひ見てほしいところを教えてください。

納谷:この作品は、実際にあった事件をもとにしています。生きるためには仲間を食わねばならないが、そんなことをやってはいけない。僕の役は、肉があるのに食わずに死ぬんです。今の現実社会ではまずあり得ない状況ですけれど、人というのは大なり小なり矛盾を抱えていると思う。希望だけが活力になるわけではないですよね。矛盾をネガティブなものとして捉えるのではなく、生きていくために抱えなきゃいけないものだと思って欲しい。よく言うカタルシスってやつです。得も言われぬものが、何か明日の活力になればよいなあと思っています。

平原:有名な作品ですが、納谷さんらしさをどのように表現されていますか。

納谷:原作に近くやりつつも、エンタメにしています。現実社会を描いた辺りは、割と僕の創作が多いです。もう笑ってもらいたいですね!「お前に食われるくらいなら、俺は海に飛び込んでフカの餌にでもなった方がましだ」っていうセリフがあるんです。ちょっと面白くて、僕、笑ってしまって…。そうしたら、仲間が「そんな切ねえこと言うなよ、そんなこと言わないで、ここで死んでくれ。残された者の身になって食わしてくれよ」って言うわけです。ちょっと角度を変えると残酷な話だけど、それは当事者にとってだけで、他人から見たら笑い話であることが多い。演劇ってそういうものだと思うんですね。この救いようのない物語を皆さんに笑ってもらえたらいいなと思います。そして、生きるということを考えてもらいたい。

一同:ありがとうございました。是非、観に行きます。

(了)

※「ひかりごけ」はこのインタビューの収録後、昨年の11月に上演され、札幌劇場祭TGRで大賞を受賞しました。


(※5)『夜は短し歩けよ乙女』(舞台)
(公演日:2021/6/6(日)~6/27(日)、会場:新国立劇場中劇場、クールジャパンパークWWホール)

(※6)『ひかりごけ』(舞台)
ELEVEN NINES(TGR札幌劇場祭2021 参加作品)
(公演日:2021/11/19(金)~11/28(日)、会場:扇谷記念スタジオ シアターZOO)

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