「赤い服の少女」三岸好太郎
《赤い服の少女》が絵本になった!
2021 03/04
|ー2021 04/11
UP:2021/03/19
おかっぱ頭の少女は眉を下げ、少し困った顔をしている。赤いワンピースは素早いタッチで描かれ、幼い心の微妙な揺れを映し出している。繊細な感情を瞬時に捉えた表現に引き寄せられる。この絵画は三岸好太郎が1932年の札幌滞在中に友人の娘さんを描いたものだ。最初は「三岸のおじさんの歯のない顔がこわい」と五歳の少女に拒まれた。急いで歯を治し、ようやく許しを得たという逸話も残っている。モジモジする少女の表情が丁寧に描かれ愛らしい。背景の温かな黄色には少女へのやさしい眼差しを感じ、画家と小さなモデルの微笑ましい時間を想像した。今回は少女の服が再現され、作品と一緒に展示されている。白い襟と裾のプリ-ツがおしゃれでモダンなデザインだ。隣にワンピースを着た当時の少女の写真も添えられていた。無邪気な笑顔に少女を囲む家族の笑い声まで聞こえるような気がした。
何年か前のある日、私は美術館ボランティアの女性と展示室の椅子に座り、ぼんやりしていた。気が付くと小柄な婦人が少女の絵を見ていた。やがてその婦人は微笑みながら静かに会釈をして出て行った。するとボランティアの女性が小声で教えてくれた。「あの方は澄江さん。絵のモデルになった方よ」。私はあわてて目で追おうとしたが、小さな背中はもう見えなかった。その後、澄江さんが度々一人で美術館を訪れること、また、三岸の命日でもある美術館の開館記念日には毎年豪華な花を届けていることを聞いた。私は胸がいっぱいになった。きっと彼女は時間を手繰り寄せるように絵と向き合い、絵は彼女に遠い記憶を語り掛けるのだろう。慈しみ愛してくれた人々の思い出は彼女をやさしく包み込んだはずだ。
昨年の夏に澄江さんは旅立たれた。私は誰もいない展示室で「赤い服の少女」を前にその物語へと思いを巡らせた。人はそれぞれの想いを重ねながら作品を見る。そうして作品は愛され続けるのだ。「赤い服の少女」は多くの人に愛されて、長い旅をするように物語を紡いでいくに違いない。
北海道立三岸好太郎美術館 スポット展示
展覧会 | 教育庁北海道立三岸好太郎美術館 (hokkaido.lg.jp)
前期 2020年12月19日㈯~2021年2月14日㈰
後期 2021年3月4日㈭~4月11日㈰