本屋大賞2020年 ノンフィクション本大賞「エンド・オブ・ライフ」を読んで

佐々涼子著『エンド・オブ・ライフ』

書籍

2020 02/05

UP:2021/03/19

人は誰でも年をとり、老いて、やがて死ぬ。わかっているはずなのに自分や身近な人の事となると、「まだ先の話」と思ってしまうのはなぜだろうか。だがある日現実に直面する。母が突然倒れ亡くなり、高齢の父と一緒に暮らすことになったのだ。この本を思わず手に取ってしまったのもそんな環境の変化があったせいかもしれない。

本書は2013年からの約7年間、著者が渡辺西加茂診療所の在宅医療を通じて出会った人々を取材したノンフィクション本である。診療所のスタッフ、在宅で終末期医療を受ける患者とその家族の姿が描かれる。「ディズニーランドで家族と過ごしたい」「家族と潮干狩りに行きたい」、無謀とも思われる願いをスタッフは献身的に叶えていく。家族と共に残り少ない時間をもれなく大切にするその姿勢に圧倒される。正直こんな対応ができる診療所はそうは無いだろう。

診療所の看護師、森山に癌が見つかる。亡くなるまでの家族との関わりや様々な葛藤が平行して描かれる。多くの終末期の患者に寄り添ってきた森山の「生きてきたようにしか死ぬことはできない」という言葉は重い。看護する側から患者の立場になり、自分なりの在宅医療のあるべき形を探る生き様を著者は寄り添い見届けた。

本書では在宅医療を推奨している、訳ではない。在宅医療の限界や厳しい現実も描かれている。終末期をどのような環境で迎えるのが良いのかは誰にもわからないし正解もないのだ。

現代の生活では死が遠ざけられ、死から学ぶ機会に乏しい。亡くなりゆく人は、ただ世話をされるだけ、助けてもらうだけの無力な存在ではない。遺される人の人生に少なからず影響を与える。亡くなる人がこの世に置いていくのは悲嘆だけではない。幸福もまた置いていくのだ。それは死や老いに対し不安と恐れを持っていた私にわずかな希望を与えてくれた。

そして今、私は母が残してくれたギフトを日々受け取りながら生きている。


『エンド・オブ・ライフ』
著者:佐々涼子
発行:集英社インターナショナル

平井美紀

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平井美紀