さっぽろ人形浄瑠璃芝居あしり座25周年記念公演「大黒屋光太夫ロシア漂流記」

人形浄瑠璃2021 さっぽろ人形浄瑠璃芝居あしり座二十五周年記念公演 通し狂言「大黒屋光太夫ロシア漂流記」

札幌市教育文化会館大ホール
その他

2021 02/27

2021 03/28

UP:2021/03/19

「大黒屋光太夫ロシア漂流記」を鑑賞しながら、これは人形浄瑠璃という芸能と、あしり座そのものの物語でもあると思いました。大黒屋光太夫は、伊勢から江戸に向かう航路の途中で嵐にあって遭難します。そして、流れ着いたロシアでも長く困難な旅を強いられ、10年後にやっと帰国が叶い、根室にたどり着きます。一方、人形浄瑠璃は、大阪が発祥の地とされますが、本州を北上し、津軽海峡を渡って、いま、あしり座の活動によって、札幌に根付こうとしています。光太夫も人形浄瑠璃も、長い旅をして北海道にやって来ました。まさに、「語られるもの(光太夫)」と「語るもの(人形浄瑠璃あしり座)」が、同じような経験をしてきたと言えます。そうした意味においても、北海道であしり座が作り上げたこの新作狂言は、創立25周年を飾るのに相応しい作品であり、たいへん充実した上演でした。

この作品には、人形制作を含む美術として沢則行さん、舞台に投影される切り絵の作者として黒川絵里奈さんといった、北海道に所縁のアーティストも参加されていて、伝統芸能が新しく根付いた土地でどのように発展していくかを考える上でも興味深いものだと言えます。正直、今回の上演について言えば、舞台の運びにもう少しメリハリがあればと思うところもありました。ただ、これが初めての通し上演ということを考えると、そこはこれからの課題であり、30周年、40周年と舞台を重ねるごとに、より劇的なものに仕上がっていくことでしょう。

激しく変化する社会の中で、伝統芸能は厳しい環境にあると言えます。しかし、観る人が少なくなったのだから無くなるのはしかたがない、と言うのでは、本当に残念です。伝統的で古いと思われるものの中には、斬新で新奇な内容が、案外たくさん詰まっています。それは、舞台・演劇のみならず、様々なジャンルで、新しい芸術表現の創造を目指しているアーティストにも、きっと刺激を与えるに違いありません。札幌で、そうした人形浄瑠璃の魅力を伝えてくれるあしり座は、とても貴重な存在であり、定期的に舞台を楽しめるというのは本当にありがたいことだと思います。そして、何より文楽のファンとして、次回公演を心待ちにしています。

鑑賞データ
日時:2021年2月27日
場所:札幌市教育文化会館大ホール

さっぽろ人形浄瑠璃芝居あしり座
25周年記念公演
通し狂言「大黒屋光太夫ロシア漂流記」

朝日泰輔

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