「男らしさの終焉」を読んで
グレイソン・ペリー著・小磯洋光訳 『男らしさの終焉』
2021 05/14
UP:2021/05/19
「男らしさの終焉」。このタイトルに心をくすぐられ、ポップな挿絵も気に入り読み始めた。本書は、白人で妻子がいるイギリスのアーティストで作家、その上TV番組の司会をし、ロンドン芸術大学の総学長でもある男性がジェンダーについて書いたものだ。
著者は、現在は社会的地位もあるが、労働者階級の出身で、トランスヴェスタイト(異性の服装をする人)であり、彼自身が生きにくいと感じた男性社会を、内側から考察している。引用やデーターを交えながらも終始批判的な眼差しで分析しているが、文体は軽やかで、小気味よく男社会の悪しき慣習をバッサリと斬り捨て、読んでいて清々しい。
また、要所要所に彼自身のエピソード−例えば、子供の頃、女性の服に興味がある自分をヤバイ奴と自覚し悩んでいた。そんな自分を克服するべくスキンヘッドで迷彩柄のジャケットを着ていた等−が盛り込まれていて、あまりの極端さに笑ってしまうのだが、その一方で、著者の苦悩と成長が垣間見え、男性であるのになぜこんなに男社会に批判的であるのか、彼の人となりを理解するのに役立った。
最後に、自分の弱さやコンプレックスを自身が認めることによって、男性社会を鋭い目で見る力を得た彼は、自分と同じように苦しんでいる男性がいるのでは、と危惧していた。「男らしさ」を見直すことによって、男性・女性・全ての人に優しい、みんながより生きやすい社会になるのではないかと説いている。その根底には、愛情を持って男性を批判し、未知なる女性を崇める、人に対する深い愛情が感じられた。
私はジェンダーの本が読みたいと思ったわけではない。面白い本を探していただけだ。軽いタッチでサクサク読めて楽しいこの本との出会いは、とても素敵なものとなった。
『男らしさの終焉』
グレイソン・ペリー(著/文)、小磯洋光(翻訳)
発行:フィルムアート社