「トゥーランドット」鑑賞レポート

トゥーランドット

札幌文化芸術劇場 hitaru
オペラ演劇音楽

2019 08/03

2019 08/04

UP:2019/08/04

 オペラをやる意義はあるのか?莫大な費用をかけて、約100年前にイタリアで作られた音楽芝居を、わざわざやる意義が。そんな問いに、この公演を鑑賞したあとなら、わたしは自信を持って「ある」と答えます。
 冷たく閉ざされたお姫様の心を、異国の王子が愛の力で開放する。古代の中国を舞台にしたエキゾチックで、いささか能天気な愛の冒険物語というのが、このオペラの一般的なイメージだと思います。それが、今回の公演で一変しました。
 トゥーランドット姫が心を閉ざしたのは、自分の祖先のお姫様が、異国の侵略で斬殺されたということにショック受けたからという設定なのですが、今回の演出家は、この「暴力の記憶(トラウマ)」に焦点をあてます。このトラウマから、姫は、求婚者たちを次々に殺害し、国を圧政で支配する。消えない記憶と暴力の連鎖。ロマンチックな愛の物語と思われていたオペラから、数々のテロ事件や紛争に脅かされている現代に突き刺さってくるようなテーマが浮かびあがります。それが、舞台に緊張感とリアリティを生み出していました。
 もちろん、プッチーニの書いたこの作品自体の素晴らしさがあってのことですが、そこに斬新で現代性に富んだ演出が加わり、正に「再創造」といった印象を受けた今回の公演は、オペラの可能性を感じさせる、見事な、そして感動的な舞台でした。

 最後に演奏について。トゥーランドット、王子カラフ、リューの主要な三役の歌手は、それぞれ聴かせどころのアリアで素晴らしい歌を披露してくれました。特に、タイトルロールのイレーネ・テオリンによる第二幕のアリア「かって、この王宮で」は迫真の出来だったと思います。今回の演出意図を考えると、トラウマの原因になった出来事を物語るこのアリアは、オペラの核になるもの。緊張感溢れる表現が見事でした。また、リュー役中村恵理による、第三幕のアリア「氷のような姫君のこころも」は、愛の為に犠牲になる心情を切々と歌い上げ、心に響きました。合唱団も迫力満点。そして、この音楽をまとめ上げ、物語に魂を吹き込んだ、大野和士の指揮が素晴らしかったと思います。
 改めて、演出、音楽、全てが高水準の素晴らしいオペラでした。

朝日泰輔

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朝日泰輔