ひらくラジオ②「見る、考える、話す、聴く 〜対話による鑑賞のススメ〜」ゲスト:山崎正明さん

SCARTSアートコミュニケーター「ひらく」1期生 卒業(仮)展

札幌文化芸術交流センター SCARTS(札幌市民交流プラザ1-2階)
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2022 02/26

2022 02/28

UP:2022/12/23

アートコミュニケーターにマッチする手法

 

齋藤|「対話による鑑賞」は具体的にはどういうプロセスで行うのですか?

 

山崎|まず作品は選びますね、対話が弾むようなものを。初めてやるときは、前もって「見る・考える・話す・聞く」という話をします。まずは30秒から1分くらい、黙って作品を見てもらいます。「見る」という時間はやっぱり大事ですね。それから自分なりに考えて、みんなの前でそれを話してもらうようにします。自分が思ったり感じたりしたことを話す、そこに間違いはありません。最後の「聞く」というのが意外と大事で、「他の人がどう言っているのかを深く聞いてください、それは面白いですよ」という話をしながらやっています。あとは、基本的には指名をしないで黙って待っています。指名をすると受け身になってしまうんですよ。発言しない子がいたら、授業が終わってから「どうだった?」と尋ねます。作品を見ても言葉にならないこともあるし、誰かに先に言われてしまったとか言いそびれたとか、発言しなかった理由も含めて教えてくれますね。

 

 

齋藤|「対話による鑑賞」を始める動機として、それまでの美術教育や学校教育への問題意識などはあったのでしょうか。

 

山崎|そうですね。ずっと以前の私の道徳の授業というと、正しいことを正しいと言わせるような価値観を押し付けるかのような感じになっていました。10年ほど前、道徳教育推進教師になり、学校として研究発表することになりました。研究の代表になった私は、まずは学校の先生全員に「対話による鑑賞」の授業を見てもらいました。みんな驚くんですよ、「何でこの子が?」という意外な子が発言するから。みんなで対話をする中でだんだん意見がまとまってきて、子どもたちなりの答えが生まれてくる。「道徳の授業もこんな感じでどうですか」と言ったら、先生たちもイメージがつかめたみたいで。「対話による鑑賞」をやるとお互いに仲良くなるし、オーバーかもしれませんが、世界も平和になりますよ。

 

齋藤|学校教育というと、正解と不正解があって、正解にたどり着くようなイメージがありますが、それとはまた違った教育方法ですよね。樋泉さんに伺いたいのですが、もともと山崎先生をご存知だったんですか?

 

樋泉|知人が企画した展覧会で、山崎先生が「対話による鑑賞」のプログラムを実施されていたんです。アートコミュニケーターの講座でも教えていただきたいと思って、知人に紹介していただきました。

 

齋藤|SCARTSでのアートコミュニケーション事業の立ち上げのときに、「対話による鑑賞」を取り入れようと思ったのはなぜですか?

 

樋泉|美術館学芸員の仕事のひとつに、展覧会来場者に向けた作品解説があります。それをずっとやってきていたので、自分で言うのもなんですけど、解説は上手にできるんですよ(笑)。でも、お客さんがどう作品を見たのかということは分からない。展覧会ではコンセプトをもとに作品を展示していくのですが、それが観る人に実際のところどう受け止められているのかがよく分からないということが自分にとっての課題でした。

 

齋藤|観ている人の反応ってなかなか分からないですよね。

 

 

樋泉|札幌芸術の森美術館で学芸員をしていた時に、市内の小学5年生を招待して美術鑑賞のプログラムを行う「ハロー!ミュージアム」という事業の立ち上げに関わりました。その過程で、「対話による鑑賞」の手法を取り入れようということになり、その担当者として手探りで始めたんです。作品について「何が見える?」とか「どう思ったの?」と小学生に問いかける中で、自分の想定とは違う視点での反応がダイレクトに返ってくるので、驚きや発見があるし、それがとても面白いと思いました。

 

齋藤|なるほど。

 

樋泉|SCARTSでのアートコミュニケーション事業では、「アートコミュニケーターを介して作品と人を結びつける」ことを目指しています。そのためには、作品解説を聞くような受動的な方法ではなく、アートコミュニケーターが一緒にいることで観る人が能動的に作品に向き合えるような方法がいいと考えて、「対話による鑑賞」がマッチするのではないかと思ったわけです。もうひとつは、「対話による鑑賞」のプログラムをつくっていく中で、コミュニケーターの方たちとまず作品のことを知るというプロセスがあるので、そこで一緒に作品を見て感じ取ったことを話し合える仲間ができることが個人的なモチベーションになりました。

 

(3ページ目「世の中にはいろんな価値観があるから面白い」に続く)

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