世界の好奇心に火を付けた春画
東京・目白台の永青文庫/文化記録映画「春画と日本人」
2019 11/28
|ー2019 12/01
UP:2019/12/02
約260年間続いた江戸時代。
世界に誇る「大都市・江戸」は川と掘割が交差する水の都、東洋のベニスとも呼ばれ18世紀には100万人に達していたと言われています。そんな江戸で生まれた大衆芸術が「浮世絵」です。
いかなる時でも「粋」を忘れないのが江戸っ子。貧しい時や厳しい風俗統制のなかでも、「浮世絵」を楽しむ心は失わなかったようです。
教科書でお馴染みの江戸の六代浮世絵師と言えば、鈴木春信、鳥居清長、喜多川歌麿、東洲斎写楽、葛飾北斎、歌川広重。実は全員(写楽を除く)、春画を描いていました。春画を描くことが修行のひとつだったと聞きます。
それこそ性愛をあからさまに描く技術と不自然でなく構成するのはかなり難しく、今では考えられないアクロバティックな体位になっているのも頷けます。さらに肝心の部分をデフォルメしておけば、体の他の個所のサイズの食い違いなど、気にもしないと言ったところでしょうか。
江戸っ子は春画に対しても大らかで、明るく笑い飛ばす傾向があったようで、これも「粋」の範疇かもしれません。
そんな春画の中でも特に私のお気に入りは、葛飾北斎の「蛸と海女」。
この時代にこれ?ありなの?と、北斎の性癖までわかるようなド迫力な作品です。なんとも美人海女が2匹の蛸に襲われ、海女の顔が・・・、海女のヴィーナスの丘が・・・。北斎のユーモラスな発想と高い芸術性が見事にワンランク上の評価を総なめです。
もう一つあります。同じく北斎の「浪千鳥」です。
元服前の若者と年上の遊女の愛がすべてを越える姿に、お互いを求める待ちきれない心の高ぶりを強引とも言えるタッチでパワフルに描いている作品です。筆の力で二人の最高潮を迎えた場面は絶賛に値します。
ゴッホもモネもドガも、さらにはピカソまで北斎の虜になり、影響を受けました。世界が先にジャポニズムを様々な分野に浸透していったことは紛れもない事実です。もしも北斎(没90歳)が後20年生き延びたとしたら、彼を取り巻く世界は一変していたことでしょう。彼の画力の高さは、日本のみならず世界に多大なる影響を与えたことに私は誇りに思います。