母と娘の壮絶なバトル!ギリシャ悲劇「エレクトラ」

札幌劇場祭TGR参加作品 劇団風蝕異人街「ギリシャ悲劇/エレクトラ」

ターミナルプラザことにPATOS
演劇

2019 11/08

2019 11/10

UP:2019/11/12

もう一つの名を多島海と呼ぶエーゲ海。この海を挟んで左にギリシャ、右にトルコが対峙しています。
ギリシャ神話によれば、プリアモス王は大神ゼウスの六代下の子孫とか。彼には大変美しく聡明な、カッサンドラという王女がいました。
しかし、同時代には絶世の美女と呼ばれたヘレネも存在します。彼女はゼウスの娘。そうご存知の通りゼウスは大の浮気者です。

ヘレネは、ミケーネ王アガメムトンの弟であるスパルタ王メネラオスの妻。伝説によれば、トロイア王ブリアモスの息子パリスがヘレネを奪ったことがトロイア戦争の原因となっています。ヘレネを奪還する総大将に命じられたのがアガメムノンです。

トロイア戦争におけるギリシャ側の勝利という大義のために、長女イフィゲニアを生贄としたこともやむを得ないと考える父アガメムノンにとっての正義は、愛する娘の命を戦争の犠牲になってはならないとする母クリュタイムネストラ(ヘレネの姉)にとっての正義によって打倒されます。彼女は愛人アイギストスと共謀して凱旋してきた夫アガメムノンと捕虜のカッサンドラを惨殺するのです。
(『ギリシャ神話』 石井桃子 編・訳 参照)


大変お待たせしました。ここから物語が始まります。

*キャスト クリュタイムネストラ(アガメムノンの妻) 太田有香
アイギストス(クリュタイムネストラの愛人) 川口功海
エレクトラ(アガメムノンの次女) 三木美智代
クリュソテミス(エレクトラの妹) 栗原聡美
オレステス(アガメムノンの息子) 高橋寿樹
守役(オレステスの養育係) 高城麻衣子
その他・・・オレステスの親友、ミケーネの女、コロスA・B・C

*舞台は非常にシンプルでどの位置からもよく見えました。
*効果音として生のドラムは不穏な音色・哀愁の音色にバンドネオンと使い分けます
*衣装は質素な感じで、劇団員のハンドメイドオリジナル感が満載です。
*コロスの存在は神々が確実に存在するという意識を示しています
*エレクトラ役の三木美智代は他の誰よりも身体能力が高く、誰もできていないすり足の動きと台詞を見事に一致させ、さらに膨大なセリフを一言も間違うことなく関係性を深めます。余談ですが、私の中では彼女は「青森のせむし男」の少年役が一番似合う人と思っています。
*クリュソテミス役の栗原聡美は主役と一緒にいると光る人。品性を感じます。

母クリュタイムネストラと母の情夫アイギストスに、愛する父アガメムノンを殺されたエレクトラは母親に対して強い対抗意識を燃やし、復讐を誓います。場の中央で行われていく悲惨なエピソードだけでも十分に悲劇的であるのに、何もかも憎む彼女の姿に悲劇性が増幅して、やりきれない思いになりました。あそこまで憎悪をむき出しにしなくてもと・・・。呪われた一族の負の連鎖。葛藤や苦しみ、怒り、悲しみの凄まじさをギリシャの神々からの計らいによるものならば、ギリシャ悲劇は遙かに運命的で、大袈裟とも言える悲嘆に満ちた物語だと思います。登場人物一人ひとりの意思や感情が非常に強く、それ以上に運命の圧倒的な流れを感じました。

しかしエレクトラの唯一の希望は離れ離れになっている弟オレステスと再会し、母を殺害すること。ようやく再会した弟を誘惑し、自分の手を染めずに母親と継父を殺害。なんてズルイ女なのか。信じられない!その罪悪感から弟は狂気に陥ります。

この運命の絶対的支配、人間にとって絶対者である神の残酷な意志。神を通じて、人間を見つめていた古代ギリシャの人々の言葉、それは時代を越えてもなお普遍的なメッセージを私たちに伝えているかのように感じてなりませんでした。

Kazuko Tanaka

レポート

Kazuko Tanaka