映画「声優夫婦の甘くない生活」鑑賞レポート
声優夫婦の甘くない生活
2020 12/18
UP:2021/01/05
この映画を観ようと思ったのは、邦題の「甘くない生活」が、フェデリコ・フェリーニ監督の「甘い生活」をもじっていると知ったからです。2020年は、イタリアが生んだ映像の魔術師の生誕100年という記念すべき年だったのですが、コロナのせいもあってか、あまり話題にならなかった気がします。かって、映画評論家の淀川長治さんが「映画の神様」と熱く語っていたのを思うと、まさに隔世の感を禁じ得ない。そんな寂しい思いをしていた時にこの映画を知り、映画史に残る偉大な天才を偲ぶためにも、ぜひ観ようと思ったのでした。
さて、この「声優夫婦の甘くない生活」という映画、確かに、主人公夫婦とフェリーニとのエピソードなども素敵だったのですが、なんといっても、その夫婦が吹き替え映画の声優だという設定が素晴らしい。思えば、多くの人にとって、週末家のテレビで観た吹き替え映画というのは、映画体験の原点の一つではないでしょうか。その刷り込みが大きくて、クリント・イーストウッドとルパン三世が同一人物に思えてしまう方も多いのでは。それはともかく、この吹き替え映画の声優を主人公に据えたということは、ご存知「ニューシネマ・パラダイス」で、映写技師が主人公になったと同じくらい、映画への思いに溢れた素晴らしい発想だと思います。
そんな、映画とわたしたちを結んでくれる声優ですが、顔が表にでない裏方だというところが、人生の機微を感じさせてくれます。華やかなスターたちの声を演じてきたのに、主人公夫婦の生活はいっこうにさえません。失敗続きで、夫婦仲もすさむばかり。やっぱり人生は甘くない。
でも、甘くない人生が、なんだかユーモラスで愛すべきものに思えてくるのは、この映画の演出の上手いところ。めんどくさいことばかりの人生だけど、いい映画が観られたら、それですべてチャラどころか、お釣りが来るくらい。そんないい気分にさせてくれます。さえない夫婦ですが、前向きにやり直そうと話をしているラストシーンを観ていると、二人が、ジュリエッタ・マシーナとマルチェロ・マストロヤンニに見えてきた。確かにほろ苦いけど、お正月に相応しい一本でした。
鑑賞データ
日時:2021年1月2日
場所:シアターキノ
『声優夫婦の甘くない生活』
12月18日(金)、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開