ことばのいばしょ 鑑賞レポート
ことばのいばしょ
札幌文化芸術交流センター SCARTS(札幌市民交流プラザ1-2階)
アート
2020 08/22
|ー2020 09/22
UP:2020/10/14
快晴がつくる逆光きみの名を一生覚えている気がするな 初谷むい
この短歌と共に展示されている風間雄飛の版画には、髪を風になびかせ遠くを見つめる人物の横顔が、淡い色彩で描かれている。絵を眺めていると、まるで自分自身がその絵のなかで日差しを浴びながら、大切な人の横顔を見ているようだ。こんな瞬間が、私の人生にもあったかもしれない。記憶の隅をくすぐられるような感じがする。
幼い頃、母や祖母が歌ってくれる童謡がとても好きだった。オーロラの火が燃える雪の国、月明かりが照らす沙漠……。「ことば」が作り出すイメージが頭の中にどんどん広がって、私は空想の世界にひたって満たされていた。この時の喜びが、「ことば」の世界に惹きつけられる原体験となっているように思う。
この展覧会で目にするさまざまな「ことば」は、日々の情報交換のために使われる言葉とはずいぶん異なる。知らなくても、味わわなくても、生きていくことはできるだろう。しかし、極限まで研ぎ澄まされた詩人や歌人の「ことば」、迷いのなかから生み出された市井の人の「ことば」に触れ、その意味を考えることで、私たちは今まで知らなかった世界に身を置くことができる。この体験こそが、人生を豊かなものにしてくれると私は信じている。