記憶のミライ 鑑賞レポート
中島洋 市民参加型アートプロジェクト「記憶のミライ」
札幌文化芸術交流センター SCARTS(札幌市民交流プラザ1-2階)
アート
2020 07/11
|ー2020 07/20
UP:2020/08/23
本展は市民参加型のアートプロジェクトである。札幌市民から募った昔の8ミリフィルムを作品の素材にしている。四方に掛かる大きな布スクリーンとその中央に置かれた水槽、それぞれに映像が連続して映し出される。家族で食卓を囲む姿など、日常の折々の表情が現れては消えていく。時おり反対側で観ている人の影が映像に重なり、囁き声も聞こえてくる。滲むような白黒の映像を見ているうちに、過去の人と対話するようなあたたかい気持ちになってきた。遠い時間と今の時間が結びつくようで、ゆるやかな空間が心地良かった。
実は私のフィルムもほんの一部だが作品に使って頂いた。母との小さな記録である。母は近頃弱る一方で頑なにもなってきた。私はそんな母とつまらぬ諍いを繰り返すようになっていた。流れる映像の中に母と幼い私の姿を見つけた時、曖昧だった記憶がくっきりと呼び覚まされた。夏の日差しの砂利道、手作りのワンピ-ス、母の呼ぶ声。ああ私は確かに幸せだったのだと思った。その日はくしくも私の誕生日だった。ささやかな幸福感と共に自分が再生されるような気がした。
後日、母を連れて再び訪れた。母は背中を丸めてポツンと座り、スクリ-ンに見入っていた。しばらくすると、生まれたばかりの私を抱いて授乳する母自身の姿が流れた。私は母の肩越しにその映像を見ていた。若かった母の横顔を見ながら、私の丸い頬は母譲りだなと思った。