三岸好太郎美術館 所蔵品展「変幻する詩情の花」鑑賞レポート

変幻する詩情の花

北海道立三岸好太郎美術館
アート

2020 04/24

2020 07/05

UP:2020/06/30

「のんびり貝」という、ある作品のタイトルがよかった。絵ではなく、その題名を褒めるのを、何かの皮肉とは取らないでいただきたい。「のんびり」という言葉が、展示されていた三岸好太郎の作品全てから私が受けた印象に、とても合っていると思ったのです。しかし、これも反論を受けるかもしれません。31歳という短い生涯にあれだけ画風を変化させた画家に、「のんびり」なんて言葉は似つかわしくないと。

三岸好太郎のどの作品を観ても、他の画家の名前が浮かんできます。ちょっと美術が好きな人であれば、どの作品が誰の影響のもとに描かれているか、言い当てるのは難しくはないでしょう。ルソー、ルオーをはじめ、抽象画やシュルレアリスムの作家たちの名前が即座に浮かびます。これは、三岸に独創性がないという話では決してありません。それだけのスタイルを自在に取り入れる画家の技量に、まずは驚きます。そして、私はそんな作品を観て、むしろ、とても良い気分になる。この画家は、本当に心から絵が好きなのだなと思えてくるのです。絵が好きで、いいと思った絵は、自分でも同じように描いてみたくて仕方ない。そんな子供のように屈託のない気持ちで、この画家はキャンバスに向かっていたのではないでしょうか。

また、三岸の絵には、絵画表現の革新に挑むといった大上段に構えたや野心や、夭折の天才という悲愴感がほとんど感じられません。むしろ、どこか鷹揚とした風情がある。好きな絵を思う存分楽しんでいるということが、こちらに伝わってくるのです。時間を忘れるほど遊びに夢中になっている子供の姿を、我々大人は羨望を交えながら、呑気でいいなと思う。そんな遊ぶ子供の姿に、この画家は近いのかもしれません。だから、私は、三岸好太郎の作品から「のんびり」という印象を受けるのです。

小さな美術館ですが、三岸好太郎という画家の魅力を存分に楽しめるこの場所は、この建物が位置する知事公館の庭園も含めて、私のお気に入りです。天気のいい日に散歩がてら出かけて、絵を観て、カフェで庭を眺めながらコーヒーを飲む。また近々、そんな風にのんびりしてこようと思っています。

鑑賞データ
日時:6月20日
場所:道立三岸好太郎美術館

朝日泰輔

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朝日泰輔