シン・東京物語として 〜  映画「AKIRA」鑑賞レポート

AKIRA

映画
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2020 06/26

UP:2020/07/01

想像の作品のなかで、そして現実に、東京ほど破壊された都市はあるのだろうか。想像の作品では、2015年の「シン・ゴジラ」が記憶に新しいところだ。現実の破壊としては、1923年の関東大震災と太平洋戦争における東京大空襲により、僅か20年ほどの間に2度も東京は瓦礫と化している。また、1936年の226事件や戦後の60年安保という、クーデターや革命運動の舞台にもなった。そして、その壊滅的な破壊や混乱から、驚くべき復興を成し遂げているのも東京の特徴であり、その象徴が、林立する高層ビル群やオリンピックだと言えるだろう。

映画「AKIRA」には、そうした破壊と再生のエネルギーが満ちている。謎の兵器により壊滅した旧東京市街と、そのすぐ横に発展するネオ東京と呼ばれる新しい都市。破壊と再生がすぐ隣に位置している構図は、まさに、東京の歴史を凝縮したものだ。そして、その新しい都市も、TOKYOを名乗る以上は平穏に過ごすことは許されず、路上にはデモ隊や世直しを求める民衆がごった返している。この群衆の姿も、倒壊したビルの瓦礫とともに、この映画のなかでとても印象に残る。次に来る崩壊への不安と新しいものを希求する願いとが一体となった、混沌とした人間の力が画面から溢れ出してくる。

都市が持つエネルギーは、そこに住む人間のエネルギーに他ならないということなのだろうか。東京を壊滅させた兵器の正体が、AKIRAという名の少年の「力」であることが、まさにそれを暗示している。そして、張り巡らされた高速道路を都市の血管に例えるなら、改造したバイクに跨り、そこを猛スピードで駆る主人公の少年たちは、東京の血に他ならない。その血はどんどん加速し、滾り、凄まじいエネルギーとなって、破壊と再生を繰り返す。

そうしたことを考えると、「AKIRA」は架空のネオ東京を舞台にした近未来SFなのではなく、東京とはいかなる歴史を持ち、そこに住む人々がどんな恐れと希望を持って生活しているかを描いた映画だと言えるのではないだろうか。つまり「AKIRA」は、その過去を踏まえて東京という都市そのものを描いた、「東京の物語」であり、更に、その未来を見通しているという意味で、それは「シン・東京物語」なのだ。

鑑賞データ
作品:映画「AKIRA」 原作・脚本・監督 大友克洋
日時:2020年6月月26日
場所:ユナイテッド・シネマ札幌

朝日泰輔

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