森の響フレンド札響名曲コンサート「バーメルトとワルツを」
森の響フレンド名曲コンサート~バーメルトとワルツを
2021 11/27
UP:2021/12/25
クラシック音楽でワルツと言うと、ウィンナ・ワルツと新年恒例のウィーン・フィルによるニューイヤー・コンサートを思い浮かべる方も多いのでは。しかし、実は私はあれが苦手。要するに、2時間もワルツばっかり聴かされるなんて、退屈でしょうがない。いくら元日の浮かれ気分とはいえ、華やかなワルツも、さすがに2,3曲聽けば十分。あとは、たいていお正月のその時間には酔っぱらっている事もあり、眠ってしまって、気がつけば放送終了というのがいつものパターン。
という具合なので、いくら札響ファンとはいえ、ワルツばっかりのコンサートではパスするのもアリかと思っていました。しかし、指揮するのが、9月の楽団創立60周年記念コンサートで、神々しいばかりのブルックナーの演奏を披露してくれたバーメルトさんとあっては、行かないという選択肢はない。しかも、今だコロナ禍ということで、数週間の隔離期間があるなか、労をいとわずの来日なのだから、聴かないとバチが当たるというものでしょう。
そうして出かけたコンサート。曲の合間に、バーメルトさんの解説(通訳付き)が入るのだが、それを聞いてハッとしました。「本日はウィンナ・ワルツは一曲もありません」。そう言われてプログラムを見て唸りましたね。確かに、誰もがワルツと言われて思い出すそれは一つもなくて、チェコ、ロシア、フランスなどのワルツばかり。しかし、チャイコフスキーの「くるみ割り人形」から「花のワルツ」、シベリウスの「悲しきワルツ」、そして「スケーターズ・ワルツ」に、更には、私の大好きなオペラ「薔薇の騎士」のワルツなど、いい曲ばかり。このひねりの効いた選曲のセンスに、まずは脱帽せざるを得ません。もちろん、演奏も悪いはずがない。札響はヨーロッパの楽団のような美しい響きだし、バーメルトさんの指揮は、曲を隅々まできれいに整えて、それでいて、聴かせどころではたっぷりとオーケストラを鳴らす、音楽的知性とエンターテイメント性を両立させた見事なもの。大満足な演奏会でした。
そして、アンコールがまたよかった。プログラムの最後、ラヴェルの「ラ・ヴァルス」が熱狂とも、狂騒ともいえる曲調で終わったあと、バーメルトさんが客席を向き、「混沌とした曲を聴いたままでお客様を帰すのは忍びないので、穏やかなザ・ワルツとでも言うべき曲を演奏します」とスピーチ。そして始まったのが、ご存知、ヨハン・シュトラウス二世の「美しく青きドナウ」。ここでウィンナ・ワルツ、それもワルツの王様みたいな曲を登場させる、心憎いまでの演出。ちなみにフランス語の「ラ・ヴァルス」を英語にすると「ザ・ワルツ」。洒落てますね。知的な遊び心が、本当に素晴らしい。
これならニューイヤー・コンサートにも負けない、などと言ったら、札響ファンの贔屓の引き倒しということになるのでしょうか。でも、結構本気でそんなことを思った、素敵なコンサートでした。
鑑賞データ
日時:2021年11月27日
場所:札幌コンサートホールKitara
演奏:札幌交響楽団
指揮:マティアス・バーメルト