「北海道の家の玄関には木彫りの熊でしょ」と思っている人は多い。我が実家にも民芸品が置いてあったが、行方知れずとなったきりだ。

ビッキ展は、木彫りアートと木工美について私に気づかせてくれた一人を思い出させた。芸術の森木工専門員だった彼は、笑顔が抜群で簡単に人の懐に飛び込んできたが、どこか孤高で、くわえ煙草で木と精霊に向き合う姿がビッキと重なる。愛嬌のあるビッキのデッサン画を今回初めて目にし、こんな鉛筆使いをするんだと惚れ惚れした人のことを、共に鑑賞した夫も偶然思い出していた。

「木にも色々(樹氣)あるんだよ」とテクスチャーの話をしてくれたり、「育ててごらんよ」と言ってデッサン用に取り置きしていた枝をすっと持たせてくれたキザな彼は、次第にアイスホテル制作にも打ち込んでいった。木や氷といった自然素材を相手に、秘めた熱い想いをぶつけていた。倒れてもアートと言われる《四つの風》の砂澤ビッキと、人間味溢れる酒井浩慶に共通する脆さとロマンチズム。酒井のビッキ論を一度でいいから聞いてみたかった。

今、我が家の玄関には酒井の作品が置かれている。ベタベタ触っては、在りし日の作家の息遣いを感じている。

In memory of Hiroyoshi Sakai