屋外にあるアートひとり鑑賞 ≪NIKE≫2005年・國松明日香作
NIKE
2020 06/01
UP:2020/06/04
初めて一人で行った美術館は野外美術館で、高校生になった時だった。ちょうど銀色夏生が流行っていた頃で、洒落た写真を撮って、現像を待って、ポエムを載せて鍵付き日記帳にそっと挿める…そんな一人遊びを楽しんだ。今、山中にある職場と自宅を車で往復するだけの非社交的な生活にあって、再び屋外にある芸術作品に魅了されている。好きな時間に単身赴き、気ままに鑑賞することができるうえ無料であることが多い。不特定多数のための作品であると同時に、自分のためだけにあるような愛おしさを覚えるのがパブリック・アートだ。
詩碑「虹と雪のバラード」に捧げる勝利の女神≪NIKE≫の作者、國松明日香氏のお名前は、札幌に暮らしている方なら耳にされたことがあるかもしれない。函館生まれの画家を父に持ち、御子息も、同じ彫刻家として白老を拠点に創作活動をされている(さっぽろ創世スクエア1階≪HORIZON≫と≪EVENT HORIZON≫は國松希根太氏作品。)市立高専教授時代の作家御本人をお見掛けしたことがあるが、穏やかな印象で、とても溶接作業をされるような方には見えない。公共施設に数多くの作品を納めてきた、一般市民に溶け込むような飾らない風貌の、身近に感じるアーティストだ。
ニケ像は、ルーブル美術館所蔵の『サモトラケのニケ』が有名で、1928年以降の夏のオリンピックメダルには必ず刻まれているモチーフであるほか、ニケの翼は、誰もが知る有名スポーツブランドのロゴにもなっている。スポーツの世界にはルールがあり、勝負がつくという点でアートとはかなり異なるのだが、スポーツ芸術という分野があるように、肉体美や躍動美のエネルギーは古くから彫刻化されている。また、スポーツの感動ドラマは、詩や音楽、舞踊といった芸術に影響することもある。近代オリンピックを提唱したクーベルタン男爵の父親は画家で、芸術に造詣が深かった男爵は「芸術(建築・彫刻・絵画・音楽・文学)競技」も公式競技として構想・提案している。
ところで、國松氏の≪NIKE≫のまあるいカーブが、光や風にあたって自然と一体になる瞬間が私はとても気に入っている。美しくも力強い、輪になって仰ぎたくなるような女神像である。氏によるニケ作品は、駅前通り沿い「伊藤ビル」前や苫小牧のアリーナにも設置されている。遭遇されることがあったら、ぜひ足を止めていただきたい。影や雪の具合によっては、ニケが翼を広げているところが見られるかもしれない。