午前十時の映画祭「隠し砦の三悪人」

午前十時の映画祭『隠し砦の三悪人』

札幌シネマフロンティア
映画

2021 10/01

2021 10/14

UP:2021/10/13

午前十時の映画祭で黒澤明監督の「隠し砦の三悪人」を観てきました。アクション映画監督としての黒澤の才能が存分に発揮された娯楽映画の傑作。これまでTVやDVDで何度か観ましたが、大スクリーンで鑑賞する4Kデジタルリマスター版は桁違いの迫力で、本当に面白かった。観終わってすぐもう一回観たくなり、一日一回の上映であることを恨みましたね。

さて、この作品、黒澤明の代表作の一つとして有名ですが、あの「スター・ウォーズ」第一作の元ネタになったことでも知られています。具体的にどんなところが原案とされているかといいますと、まずは、お姫様を連れての敵中突破という基本プロットが同じですね。また、「三悪人」でお姫様のお供をすることになる、千秋実と藤原釜足演じるお百姓さんの凸凹コンビが、C3-POとR2-D2のモデルになったことも有名です。更に、三船敏郎演じるサムライが、ジェダイの騎士やダースベイダーの原イメージであることは言うまでもないでしょう。両作のお姫様が、単にお人形のような存在ではなく、活発なところも似ているところかもしれません。というように、挙げれば切りが無いほど、そっくりなんですよね。

ここで、ちょっと話がそれるのですが、逆に似ていないところはどこだろうと考えたときに、真っ先に思いつくのが、「スター・ウォーズ」に出てくるフォースという超能力みたいなやつです。リアリズム重視の黒澤明映画には、そんなものは出てこない。では、これは何から発想されたのか。

私の想像に過ぎないのですが、ここにも東洋人が作ったある映画が影響しているのではないかと思っています。それは、ご存知ブルース・リーの「燃えよドラゴン」。この作品と「スター・ウォーズ」の戦闘のクライマックスが、私には同じに思えてしかたありません。

「燃えよドラゴン」のクライマックスで、ブルース・リー演じる主人公は、敵の首領を追って鏡張りの部屋に入っていきます。そこで、鏡の反射でどこから敵が襲ってくるのか分からなくなり苦戦を強いられます。その時、「敵は幻影にしか過ぎない」という師匠の言葉を思い出し、ブルース・リーは目を閉じて、相手の気配を察することで敵を倒します。

「スター・ウォーズ」のクライマックス、敵の要塞衛星を破壊するために主人公ルーク・スカイウォーカーは戦闘機で飛び立ちますが、衛星の中心部に打ち込む爆弾を外してしまいます。残る爆弾は一発。それをきっちり中心に打ち込まなくてはなりません。その時、「フォースを使え」という師匠の声が聞こえます。ルークは照準器を使うのをやめ、更に、目を閉じて戦闘機を操縦、フォースという第六感で、見事に敵の要塞を爆破します。

似てますよね。ジョージ・ルーカスがブルース・リーから影響を受けていないはずはないと思うのですが、如何でしょうか。つまり、「スター・ウォーズ」は二人の東洋人からの影響によって生まれた映画だと言っても過言ではないと思います。また、ここに、西洋の超大国が東洋の小国に破れたベトナム戦争の影を見ることも可能かもしれません。

えーと、「隠し砦の三悪人」の鑑賞レポートを書いていて、かなり脱線した気もします。けれども、ジョージ・ルーカスにはオリジナルな発想が無くて黒澤明にはそれがある、故にクロサワは偉い、などということを言いたいのでは全くありません。

遠く海を隔てた外国の一人の映画好きな青年をして、「あんな映画を作ってみたい!」と思わせたほど、「隠し砦の三悪人」は魅力的な映画であり、そこからルーカスが、自身の想像力を羽ばたかせて映画史に残る人気シリーズを作り上げたことは、本当にすごいことだと言わざるを得ない。これは「真似」などというつまらない問題ではなく、一つの作品へのオマージュであり、一人の創作者から別の造り手へのバトンの受け渡しのようなものなのだと思います。一つのアイディアは、別の作品のなかで新しく展開し、ひいては映画というジャンル全体に新風を吹き込むことになる。その根底にあるのは監督同士の互いへの敬意であり、映画そのものへの愛情ではないでしょうか。「隠し砦の三悪人」と「スター・ウォーズ」のような例を発見すると、そこに、映画作りに携わる人々の「映画愛」を強く感じて、とてもいい気分になります。

また、一映画ファンとしては、一つの作品からいくつもの別の作品へ思いを馳せることは、結局ずっと映画のことを考えていられるという至福の時間であり、こんなに楽しいことはない。ということで、「隠し砦の三悪人」を観るということは、そうした意味でも、映画好きにとってこれ以上ない幸せだと言えるでしょう。

願わくば、午前十時の映画祭が今後も末永く続いて、毎回黒澤明作品が上映されますように!

鑑賞データ
日時:2021年10月11日
場所:シネマフロンティア
作品:「隠し砦の三悪人」

朝日泰輔

レポート

朝日泰輔