北海道二期会創立55周年記念公演 オペラ・ガラ・コンサート/「道化師」鑑賞レポート
教文オペラプログラム 北海道二期会創立55周年記念公演 オペラ ガラ・コンサート、歌劇『道化師』
2019 11/23
|ー2019 11/24
UP:2019/11/27
学生の頃から歌舞伎が好きで、今でも年に数回は東京まで見物に出かけます。その歌舞伎のお芝居は、大きく「時代物」と「世話物」に分かれます。「時代物」は、簡単にいうと「江戸時代の時代劇」。例えば源平合戦などを題材に、主に武将を主人公にして、武家社会を描くものです。それに対して、「世話物」は「江戸時代の現代劇」で、町人社会が描かれます。どちらが好きかと言われれば、もちろん個別の作品にもよりますが、せっかく晴れの世界である劇場に行くのなら、地味な「世話物」よりも、英雄豪傑やお姫様が、豪華絢爛な舞台を背景に活躍する「時代物」を好んで観ていました。
ところで、オペラには「ヴェリズモ・オペラ」と呼ばれる作品ジャンルがあります。19世紀末から20世紀初頭にかけてのイタリア・オペラの一つの傾向で、その作品の多くは、市井に生きる人々の日常生活を題材にしています。歌舞伎に親しんでいたわたしは、この「ヴェリズモ・オペラ」を、つまりは「オペラの世話物」だと考えていました。なので、せっかくオペラを鑑賞すのなら、白鳥の騎士や絶世の美女であるお姫様が活躍する作品がいいと常々思い、「ヴェリズモ」に関しては、「カルメン」やプッチーニ作品を除いて、積極的に聴こうと思わなかったというのが正直なところです。
しかし、今回、北海道二期会の記念公演で上演された、その「ヴェリズモ」の代表作である「道化師」は、本当におもしろかった。そして、大いに感動しました。地味な「オペラの世話物」というわたしの偏見は、なぜ覆ったのか。それには以下のような理由が思いつきます。
まず第一に、このオペラそのものである、レオンカヴァッロの音楽が素晴らしかった。失礼を承知で書きますと、このオペラでは、有名なアリア「衣装をつけろ」さえ聴ければいいと思っていました。しかし、わずか一時間半ほどの作品のなかに、各登場人物の聴かせどころがあり、二重唱があり、そして合唱団による村人の歌がありと、多彩な音楽が散りばめられていて、まったく聴き飽きることがない。そして、第一幕の幕切れにあのアリアが響き、次の幕では悲劇が起きる。ドラマチックそのものといっていい音楽の流れでした。
そして、なんといっても、その音楽に命を吹き込んだ歌手の皆さんの素晴らしさ。舞台に立たれた皆さんが、それぞれの役を見事に演じ、こころのこもった歌を聴かせてくれました。なかでも、主役のカニオを演じた岡崎正治さんの歌唱は心に響くもので、聴いてから数日たった今でも、わたしの頭の中では「衣装をつけろ」が鳴り響いています。また、オーケストラも迫力のある演奏で、登場人物の激しい感情を表現していました。
この音楽と演奏に加えて、演出もシンプルながら、登場人物の心の動きを的確に観客に伝えるもので、要するに、今回の上演は、オペラを鑑賞する楽しみと喜びを、存分に味わうことのできるものだったと言えます。市井の人々の生活の中にこそ、ドラマがある。これが、リアリズムを追求した「ヴェリズモ・オペラ」が描きたかったことなのかと気づかされた思いです。
わたしの「偏見」による食わず嫌いは、完全に払しょくされました。もっとオペラを観たい、いまはそんな気分です。