ボーダレスアートinスカーツ 鑑賞レポート
ボーダレスアート in スカーツ
2020 01/18
|ー2020 01/21
UP:2020/01/24
若いころに夢中で読んでいた澁澤龍彦の美術評論を久しぶりに読み返していて、おやっと思うことがありました。その文章で、澁澤は現代美術が「抽象化」していることを論じて、そうした作品を好まないという趣旨のことを書いているのですが、ここで「抽象芸術」とは、例えばカンディンスキーのような所謂「抽象画」を指しているのではないのです。
澁澤が芸術の「抽象化」と呼んでいるのは、観念やアイデアが作品の中心になっている現代美術の傾向です。この指摘にわたしは、大いに納得するところがありました。常々わたしも、現代アートは「ことば」が多すぎると思っていたからです。つまり、社会問題等を訴えているという、作品の説明なしには分らない作品が多いのではないかと思っていました。もちろん、それは重要なことであり、アートを使うことで、違った視点から様々な問題にアプローチできるという効用はあるのだと思います。しかし、もっと純粋に造形や色彩の美しさや楽しさを伝えてくれる作品があってもいいのではないかと考えていました。
SCARTSで開催されているボーダレスアート展に関して、実はあまり関心を持っていませんでした。それがとても大事なことだとは分かってはいますが、あまりに福祉的なテーマが前面に押し出されていると、ちょっと観るのが重いなと思ったからです。「抽象的」な展覧会ではないかと思っていた言えるでしょう。
しかし、実際に展覧会を観た感想は、まったく正反対のものでした。とにかく、展示された一つ一つの作品がもつ個性と圧倒的なエネルギーに打たれました。どの作品も、その作家にしか作れない、その意味では孤独でありながら、つくるよろこびに満ち溢れた作品でした。「抽象的」なテーマありきではなく、何よりも作品自体が魅力的だったと言えます。
今回のボーダレスアート展が訴える「多様性」は、そうしたテーマのもとに作品が集められたからではなく、そこに展示されている作品の個性自体から感じられるものであり、そうした作品に触れられたからこそ、「多様性」の大切さをより深く理解できるのだと思います。