『教文オペラ/トスカ~行け、黄金の翼にのって~』インタビュー
教文オペラ G.Chiaro presents ドラマティック・コンサートVol.3 Va pensiero sull'ali Dorate ~行け、黄金の翼にのって~
2019 12/04
|ー2019 12/05
UP:2019/12/11
質の高い文化芸術が集まり、好奇心を刺激する材料にあふれるイタリアで感性を磨く
三宅:札幌とイタリアで歌われてみて違いはありますか。
倉岡:違います。札幌にはKitara(※1)やhitaru(※2)など素晴らしいホールがあります。オペラを演奏する空間には最適な規模があり、イタリアの歌劇場は収容人数1200程度で生の歌声を、天井桟敷席まで無理なく響かせる事のできる劇場がほとんどです。距離感が絶妙と言いましょうか、上で歌っていて自分の声が返ってくる、その反響が素晴らしいのもイタリアの劇場の特徴です。
学生の時は毎日のように通った天井桟敷席は5ユーロで入れ、その席にいる人たちは結構、オペラ愛好会の方も多く評価が厳しいです。少しでもミスをするとブーイングになり、また素晴らしいパフォーマンスには、熱狂的に拍手を送ります。そのダイレクトな反応を肌で感じ、大変勉強になりました。
萩中:イタリアではオペラとともに他の芸術も盛んだと思いますが、倉岡さんはイタリア滞在中、感性を磨くために意識していたことが、今のご自分のオペラにどのような影響を与えていますか。
倉岡:全てです。私は、とにかく何でも積極的に観に行きました。例えば、美術展、演劇や建築関係の展覧会ですとか。ミラノという街は本当に色々なものを受け入れ、ミラネーゼの好奇心を掻き立てるものが常にあり、感性を刺激する材料で溢れていました。特にミラノは最先端のものが集まりますし、デザインやファッションでも、すごく質の高いものがあるのです。あと、日々の何気ないことや食文化も含め日常が非常に芸術的でした。
私が学んだ音楽院のあるパルマは、私が愛してやまないオペラ作曲家、ヴェルディの故郷のすぐ近くです。パルマはグルメとオペラの街で知られ、どこにでも美食があり、そして毎年10月になると1ヶ月間、町をあげてヴェルディ音楽祭が開催されます。食文化とオペラのコラボレーションですとか、大人向けの催しのみならず、未就学児を対象にしたオペラ鑑賞会ですとか、様々なイベントがあり、大きな影響を受けました。活動のヒントになる事も沢山得られました。
萩中:なるほど「全て」っていう言葉の意味が分かりました。
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よりよい発音、発声のために細かく分析し、徹底して勉強
田中:イタリア語での表現ではかなりご苦労なさったと、おっしゃっていたのですけれども、どのように勉強なさったのですか。
倉岡:とにかく早く習得したかったので、留学すると決めた瞬間から、一秒でも時間ができたら辞書を開いていました。
また、生きた会話を多くするために、最初のうちは日本人の友人との接触を避け、もどかしい思いをしながらも、現地の人との交流しかしないという徹底した生活を送っていました。2年目でようやく自由に表現できるまでの語学力がつきましたが、それ以上に能力をあげられるかは目的意識により差が出ます。
それから、歌にも直接関係しますが、楽器(身体)の使い方で発声はかなり変わります。イタリア語でパラートといい、すなわち骨格の生理学的用語で口蓋のことですが、口内のクーポラ(※3)の様になっているところを意識します。顔の内部には共鳴腔がたくさんあるのですけれども、その共鳴空を最大限に響かせる発声を心がけています。その響きを使わないと、イタリア語がきちんと発音できず、私たち外国人が学ぶにあたって、舌の使い方などの内部の動きですとか、母音や子音の発音の仕方など、細かく分析して勉強しました。
田中:それは、その学校で教えていただくのですか。
倉岡:レッスンもそうですし、音声学やデクションという発音の授業もありまして、専門の音声学の先生や他にも耳鼻咽喉科のドクターの講義で学びました。
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毎回、自分から出てくるものを恐れずに表現しているから、都度生まれてくるものが変わる。だからこそ、面白い。
田中:さて、総合芸術といわれるオペラですが、同じ演目でも、やはり歌い手、指揮者や演出家が違えば、舞台は全然、別世界になりますよね。それでお聞きしたかったのは、倉岡さんだからこその、今回のトスカの魅力ってなんでしょうか。
倉岡:深い質問ですね。確かに演じる側も、そのプロダクションが変わると、演出家、指揮者、すべての影響を受けながら、気持ちが変わりますね。逆に、私はすごくニュートラルで、作品を理解した上で、自然に生まれてくるものをそのまま、お伝えすることを心がけています。稽古を重ねていても、その都度生まれてくるものが変わります。だからこそ面白いのです。
田中:自然にこう生まれてくる物を大事にしていくっていうことですね。
倉岡:そうですね。自然に生まれたものを、お伝えする技術を、最善の形で表現するために努力しております。例えば、声の技術や美しい声を保つために何かされていますか、とよく聞かれるのですが、最高のパフォーマンスのための技術は常に磨き続けています。不思議なことに年齢とともに、声も発声法も変わるのです。発見があるのです。楽器が続く限り、歌い続けたいと思います。その研究材料は沢山あって、尽きることがないと思います。
三宅:最後に今後の予定をお聞かせください。
倉岡:まず、教文オペラです。そして、年内最後はKitaraで「0歳からのハッピークリスマスKitara」というコンサートがあります。Kitaraでパイプオルガンと共演の機会をこんなにも早くいただけるなんて、本当に光栄で感謝しております。
三宅:それでは素晴らしい公演を楽しみにしております。本日はありがとうございました。
(※1)札幌コンサートホールKitara
(※2)札幌文化芸術劇場hitaru
(※3)口蓋(音楽用語)発音や調音上、重要な器官
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公演情報
教文オペラ G.Chiaro presents ドラマティック・コンサートVol.3 Va pensiero sull’ali Dorate ~行け、黄金の翼にのって~
日 時:2019年12月4日(水)18:30開演、 5日(木)18:30開演
会 場:札幌市教育文化会館小ホール
料 金:一般指定席4,500円 一般自由席3,500円 学生自由席1,500円
指 揮:佐藤 宏
演 出:松本重孝