「風の見える音楽 ギターとうたう武満徹SONGS」鑑賞レポート

風の見える音楽 〜ギターで歌う武満徹SONGS〜

奥井理ギャラリー
その他音楽

2020 11/07

UP:2020/11/20

戦後世界を代表する作曲家であった武満徹は、クラシック・コンサートの為の曲を書く一方で、映画やTVドラマの音楽をたくさん残しました。少し古いですが、吉永小百合さんが主演された「夢千代日記」の音楽も武満だと言ったら、タイトルクレジットに映る鉄橋や日本海の風景とともに、あの悲しげな旋律を思い出す方も多いのではないでしょうか。難解な現代音楽の作曲家は希代のメロディ・メーカーでもあったのです。そんな武満の残した美しい旋律に溢れた20曲ほどの歌曲が、「SONGS(うた)」としてまとめられています。これらも大半は映画やドラマの主題歌として書かれたものですが、一度聴いたらつい口ずさみたくなるような、素敵な曲ばかりです。

「ギターとうたう武満徹SONGS」というコンサートが、藻岩山の登山口近くにあるギャラリーで開かれました。まず、その会場を選んだことに拍手を贈りたい。自然からインスピレーションを得て作曲することが多かった武満の音楽を聴くのに、山の麓の林に囲まれたギャラリーは、これ以上ない場所でした。この演奏会には「風の見える音楽」という副題がついていましたが、会場の大きな窓からは、コンサートの間じゅう、文字通り風に揺れる木立が見えていました。

今回歌の伴奏はギターだったのですが、それもこの作曲家に相応しいものだと思いました。それは武満のお気に入りの楽器であり、生涯にわたって曲を書いているからです。その作曲家最愛の楽器を弾いた福井岳郎さんの演奏は、澄んだ響きがとても美しかった。また、福井さんは南米民俗楽器の奏者でもあり、ギター伴奏の合間に、珍しい楽器の演奏を挟み込んでいたのですが、それがとても楽しく、その自由な発想が、曲をより生き生きとさせていたように思います。そして、もちろん、ソプラノ歌手の柳生たみさんの歌が良かったのは言うまでもありません。一曲一曲を愛おしむように、丁寧に歌われているという印象で、本当に心地が良かった。また、「死んだ男が残したものは」での、静かに訴えてくるような表現には大いに感動を覚えました。

小さなギャラリーでの、少人数の観客のコンサートでしたが、その企画も演奏も、音楽への愛情に満ち溢れた素晴らしい演奏会でした。

 

鑑賞データ
日時:2020年11月7日
場所:奥井理ギャラリー
演奏:
柳生たみ(ソプラノ)
福井岳郎(ギター/南米民俗楽器)

朝日泰輔

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朝日泰輔