「ホーレス・ケプロンって、誰ですか?」

『進藤冬華 | 移住の子』

モエレ沼公園ガラスのピラミッド
アート

2019 07/20

2019 08/25

UP:2019/08/20

「ホーレス・ケプロンって、誰ですか?」
彼は札幌大通公園西10丁目に、黒田清隆の銅像と並んで立っているアメリカ人です。思い出してもらえましたか。

アーティスト・進藤冬華さんはこのケプロン(北海道の開拓に大きな功績を残した人)に焦点をあて、リサーチをもとに、彼の開拓史と進藤さんの自分史を行ったり来たりさせながら、そこから湧き上がる想像力や進藤さん自身の感情が動かされる部分を大事にして、作品を生み出しています。
歴史の時間軸を行き来するため、過去と現在に対するリアリティーと違和感(ズレ)も同時に感じられる個展です。

最初に目に飛び込んできたのは、天井の「8つの旗」。その美しい色合いに一瞬で魅了され、展示空間に引き込まれていきます。続いて進藤さんの解説で「トウモロコシ畑」、「ケプロンと私の日誌」、「過去⇔今」「フリの記録・コラージュ」「移住の子」「大地」「馬」「石碑」「想像上のレプリカ」「ケプロンと黒田の像・ピクルス/切り干し大根」までじっくり鑑賞することができました。博物館のような、美術館のような、新しいものを見ているような、古くからあるようなものを見ているような、とても不思議な感覚をもって私は見ていました。

特に目を引いたのは「想像上のレプリカ」。因みにケプロンは日本のアンティークが好きで、帰国に際し日本のアート作品を持ち帰ったそうです。1883年のケプロンコレクションから、進藤さんは文字資料だけを頼りにこの作品を作ったと話します。
結果、日本と中国がミックスしたようなものや明らかに間違いとわかるもの(トナカイに乗った神)まであり、大いに笑いを誘いました。昔の日本(神話や歴史上人物、彫り物、漆の食器など)について知らなかった進藤さんは、勘違いして作った作品と自分との間には大きな隔たり「ズレ」があると感じたそうです。

ケプロンと進藤さんとの間に生じた「ズレ」は、もちろん鑑賞者との間にも生じます。しかし、その「ズレ」を否定するのではなく、むしろそれを「面白がる」として捉えたとしたら、また新たな視点が生まれてくるのではないでしょうか。もはや新しいアート作品・新しいアーティスト/進藤冬華さんの誕生と言えるかもしれません。

Kazuko Tanaka

レポート

Kazuko Tanaka