普通の人でいたいけど、やりたいのでしょうがない。
谷口顕一郎さんインタビュー
インタビュー
2021 10/02
UP:2023/01/11
街の印象を視覚的に切り取る
――「シティスタディ」でパーツを切り出す際の区切りは、どのように決めるのですか?
その街が僕に大きく与えてくれた印象を作品に取り込むので、区切りは街ごと、作品ごとに変わります。
「シティスタディ」は街の形をモチーフにしているため、展覧会や公共彫刻、もしくはアーティスト・イン・レジデンスなどで、制作時は実際にその街にいることが多いんです。その際、その街からどんな印象を受けるかということを一番大事にしていて、それによって行く場所や行動範囲、見るものを決めます。
たとえば、《札幌のかたちを巡る 2018》では、札幌の街を流れる川に注目しました。市内を毛細血管のように巡っているのが気になったので、それをパーツ分けの基準にしています。中国の成都に滞在して作品をつくった時は、 幅100mもありそうな道路がとても印象的でした。郷土博物館などを訪れるうちに、南北に通る道路と環状道路のコンポジションが面白いと感じるようになったので、それを彫刻に取り入れています。ヨーロッパでは、用水路やダムなど、中世の要塞の堀の跡に着目しました。僕が彫刻に取り入れるのは視覚的なものだけなんです。その街の歴史的背景などではなく、視覚的に面白いものがあれば何でもOKというスタンスで制作しています。
成都市のシティスタディ
#2, 2019, Compressed PVC, Brass, Steel, Hinges, Rotatable devices, 90 x 125 x 30 cm
© Ken’ichiro Taniguchi Sculpture Studio
画像引用元:https://kenichirotaniguchi.com/city-study/project/chengdu
――札幌の成り立ちと石狩川の治水との関係を考えると、区切りとして川が用いられることに “自然” と “人間の営み” との境界を見出し、そこに深い意図を感じます。
石狩川は僕の興味のど真ん中ですね。ただ、《札幌のかたちを巡る 2018》には反映されていません。この作品では治水のことは上手く表現できなかったので、「凹みスタディ」のほうでやろうと思っているんです。
石狩川は昔ものすごく曲がりくねっていましたが、今はわりとまっすぐになっています。三日月湖も忘れられて、流れはもう、ほとんど誰も知らないような状態になっています。
たとえば、昔の流域で凹みを数10個採取できれば、それを辿ることによって昔の石狩川の流れをまた感じられるのではないか。そういった構想があって、来年(2023)頃から始めてみようかなと考えています。
自分でもなぜか分からないんですが、ネガティブな凹み、隠れている暗渠、忘れられた昔の流れ、そういったものを明らかに見せてあげたいというのが作品の根底にあるのかもしれません。
インタビュー中のスナップ(谷口さん)
インタビュー中のスナップ(荒、伊藤、田原)
ひと畳みのワクワクが形を決める
――立体に組み立てる際、パーツを接続する部品や位置はどのように決めるのですか?
カットする箇所や形、接続において何を選択するかは一番大事な部分で、自分の腕の見せ所であり、訓練してきたところです。現在、接続する際には、畳む、曲げる、回す、ねじる、じゃばらのように広げるといった方法を用いています。
制作工程としては、まず、凹みや街の形を平面に抜き出します。次に、どこか1ヶ所を切って畳んだり曲げたりしてみます。その、ひと畳み、ひとねじり、ひと回しで、形って劇的に変わるんです。それを見て初めて「じゃあ次はここかな」「次はこの辺かな」というのが出てくる。そうして繰り返すうちに、何となく最終的な「あ、こんな形が出てきた」というものが現れてきます。なので、グランドデザインやコンセプトが先立つことはほとんどありません。もちろん、形が変わることによって失敗して「残念だな」という時もなくはないんです。ひと畳みひと畳みが、良くも悪くもものすごくドキドキする。この緊張感が、これほど長くこの彫刻をつくり続けていられる理由の1つかなと思います。逆に、このドキドキ、ワクワクがなくなってしまうと作品としても良くないような気がします。
立体にする作業は本当に奥が深い。たとえば、もう10年以上、畳む時は直線という考えしかなかったんですが、最近、ジグザグに畳むことを覚えたんです。そうするとまた全然変わってくる。いまだにこういう発見があるので、畳む、もしくはパーツを切り出す時の形、そしてそこにどういう動きをつけるかということはとても大事な、これからもまだまだ研究していくところです。
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