映画「去年マリエンバートで」鑑賞レポート
去年マリエンバートで
2020 01/18
UP:2020/04/12
レンタルビデオショップの一番目立つところにある新作コーナーの棚の前をとおりすぎ、ゆっくり店の奥に進む。同じつくりの棚がいくつもつづき、そしてそれが鏡張りの壁に映っているので、途中何度も迷子になりながら、なんとか探していた場所にたどり着く。その過去の名作コーナーの棚にならぶ、フェリーニ、ベルイマン、タルコフスキーといった監督たちの作品をゆっくり眺めると、若いころ、こうした作品を夢中で観ていたことが想い出され懐かしい。そして、それらが意外なほど貸出し中になっているのを見つけて、今でもこうした作品に夢中になっている人がいることが嬉しい。しかし、DVDを借りた人は、それらを映画館のスクリーンで観たいと思っているはずだ。かくいうわたしもそのひとりなのだが、なかなかその望みは叶えられない。しかし、不意にその機会は訪れた。しかも、スクリーンに帰って来たのは、まるで目を開けて見る夢のように意味ありげで美しい作品だった。
「去年マリエンバートで」は1961年制作のフランス映画。監督はアラン・レネ、脚本はアラン・ロブ=グリエ。同年のヴェネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞した。4Kデジタル・リマスターされたことをきっかけに、今回リバイバル上映された。詩人ジャン・コクトーや彫刻家ジャコメッティを夢中にさせた傑作として評価の高い一方、その斬新なスタイルのため、難解さでも知られる作品だ。
映画では、バロック様式のホテルとその庭園を舞台に、ある男と女の会話が延々と続く。男は女に、去年駆け落ちの約束をしたと問い詰めるが、女はそれを決して認めない。それが過去と現在を行き来しながら、いつ果てるともなく繰り返される。そうした、時間が複雑に絡み合い、事実なのか想像なのか分からなくなるような作品のつくりが難解といわれる所以だろう。
しかし、まずこの映画の素晴らしさは、舞台となったホテルと庭園をうつした映像の美しさだ。映画の冒頭、カメラは移動撮影でその室内をゆっくりうつし出す。壁や天井を生きた植物のように覆う装飾、同じつくりの扉や柱が延々と続き、それらを鏡がさらに反復させて、まるで迷宮に迷い込んだような錯覚を起こす。この目を開けて夢の中に落ちていくような不思議な感覚は、他では味わえない。難解として安易に退ける前に、こうした映像の美しさに身を委ねるのも、映画の見方だと思う。
そうはいっても、目覚めた後にいま見た夢の謎解きをしたくなるように、不可解な物語の意味を探りたくもなる。わたしは、この映画は叶わない願望や抑圧された欲望を表していると思った。執拗に繰り返される男の問いと女の否定が、まさにそれだ。しかし、夢は見た人がそれぞれ意味を見つければいいのだろう。難解さとは、観る人が自由に意味を見出していいということだ。
過去の名画をスクリーンで観たいという願いが、叶わない願望を描いた作品で満たされたという「ねじれ」を、とても面白いと思った。