鰐と父

砂澤 ビッキ -樹- 展

本郷新記念札幌彫刻美術館
アート

2019 04/27

2019 06/30

UP:2019/07/31

私の父は札幌で小さな会社を営んでおり、母は会社の経理を担っていた。営業もしていた父は付き合いで酒を飲むことが多く、平日はススキノ、日曜は早朝からゴルフバッグを車に積んで出かけていくのであった。

父にはススキノでバーを営む友人がいた。バーには、度々ビッキが訪れ、酒の代金と引き換えに自分の作品を置いていったと私は父から聞かされていた。我が家にも、その友人から譲り受けたのだろう、ビッキの「鰐(わに)」がいた。

大きな口には凶暴な歯こそなかったが、マッチを入れられるくらいの小さな空間が広がっていた。箱としての機能は完全に無視され、いくつものパーツに分けられた体は、家で一人過ごす私の玩具になっていた。

「砂澤ビッキ 樹」では創造と自然を愛したビッキの工芸作品に出合った。北国の力強い生命力を感じさせるフォルムや刻まれた緑青色の文様に、私は昔遊んだ「鰐」を思い出した。そして幼い頃の空気や時間、そして父の姿が一瞬にしてぐぅんと蘇ってきたのであった。

永井 歩美

レポート

永井 歩美