主人公を汚く書くと、物語は美しくなる
桜木紫乃スペシャルトーク「緋の河」の来し方 行く末
2019 08/28
UP:2019/08/29
釧路生まれの直木賞作家・桜木紫乃は、同郷のカルーセル麻紀を題材とした長編小説「緋の河」の連載を書き、全国で大きな反響を呼んでいる。同作の第二部の執筆が始まっているということで、今回のトークショウにお邪魔した。
いまやテレビで見ない日はない「おネエタレント」。マツコ、はるな愛、IKKOなど、挙げたらきりがないが、そんな彼女たちが励まされ、憧れを抱き、尊敬して止まない人がまさにカルーセル麻紀、そのひとである。
彼はいや彼女は自分の生きざまを隠さない。それは実に波乱万丈の人生、完全無欠のエンターテイメントだ。「男として生まれた。でも、あのおねえさんみたいな、きれいな女の人になりたい」と徹男少年は、中学時代に三島由紀夫の「禁色」を読み、そういう世界があることに気が付く。15の時から家出を繰り返し、差別と偏見の嵐のなか、果敢にも「キワモノ」の道を切り開いた勇気の人である。身体と脳を一致させるために、今から47年前、命がけの工事(俗)にモロッコまで行ったことは有名な話である。
そんなカルーセル麻紀の少女時代にスポットをあて、「虚構に宿る真実が見てみたくて、この小説を書いた」と、執念にも似た作家の想いとフィクションが及ばない「知られざるストーリー」が重なり、さらに、カルーセル麻紀の「書くならば、とことん汚く書いて」の3重奏が響き合って、この美しい物語が完成したと語る。
さらに「小説は自分のために書くもの、読者のためではない」「読んでほしい人はカルーセル麻紀、なぜなら虚構を書いているとわかるのは彼女だけだから」「それは自分が小説家としての証明でもある」と。作家も芸術家も自己愛が強くないとダメなのか!そう納得した夜だった。「因みに第二部はモロッコで目が覚めたところから始まります」の、言葉に会場がざわめいた。