作家 国松希根太さんとみる《HORIZON》
インタビュー
2021 10/02
UP:2023/01/11
国松希根太さんは北海道白老町の飛生アートコミュニティーを拠点に制作活動を行なう彫刻家。地平線や水平線、山脈などの風景の中に存在する輪郭(境界)を題材に彫刻や絵画、インスタレーションなどを制作しています。
個展「地景を刻む」の開催中、飛生のアトリエとZoomで結んで代表作《H O R I Z O N》シリーズの謎に迫りました。
インタビュー日:2022年10月17日(土)(Zoom)
インタビュアー:福野綾子(SCARTSアートコミュニケーター「ひらく」)
編集:江野清美・長谷川宏美・福野綾子(SCARTSアートコミュニケーター「ひらく」)
撮影: Yasuhito Sasajima
《H O R I Z O N》の生まれるまで
【白老という土地と作品との関わり】
Q : 今アトリエを構えておられる白老のお話から伺えたらと思います。札幌から離れた自然豊かな白老・飛生(とびう)にアトリエを構えていらっしゃいますが、どういった理由で飛生を選ばれたのでしょうか。
国松:大きい作品を置いたり、チェーンソーなど音の出るものも使うので、まずは制作の場所として制約がなく作りたいときに作りたいものを作れる、広さを含めた環境としての使いやすさで選びました。
Q : 小さい頃に、一度こちらに住んでいたんですよね?
国松:そうです。住んでいた頃にあった飛生小学校が廃校になり、その場所をアーティストたちがアトリエとして使いだして、今の飛生アートコミュニティーとなりました。
自分は大学卒業後、制作場を探していたときに、空いているアトリエも住む場所もあるというので、2002年から使い始めました。
Q : 幼少期のころの思い出深い土地で、現在はフィールドワークもされていると伺いました。作品作りの上で影響を受けているところもたくさんあるのではないでしょうか。
国松:そうですね…。小さいときに住んでいた思い入れからここにまた住みたいと思った、というのはあまりなくて、どちらかというと作る場所を探していて安く広い場所を使えるからというのが正直な理由です。
自然の環境が好きで使い始めたというのは最初はなかったんですが、住んでいるうちに「昔はこういう土地だったんだろう」とか、歴史的なことにも興味が出てきて、身近な今の環境に目が向いていきました。
やっぱり日常で見ているものは作品に影響してくると思うので、東京で制作するものと、ここで暮らして制作するものとでは違うものが生まれてくると思います。
実際にフィールドワークを意識的に始めたのは2015年くらいからでしたが、その前からも土地に興味を持ち、外へ見に出かけることをたまにしていましたね。
住み始めた頃は、以前から作っていたような作品を作っていたんですけど、この環境にいると、普段何気なく車の運転や散歩をしているだけでも、海が見えてきたり、山が見えてきたり、というのが自然とあって、それを作品として何か表せないかなという気持ちになりました。
【作品の素材とその魅力】
国松希根太《GLACIER MOUNTAIN》
木(ミズナラ)にアクリル絵具 136×87×89cm 個人蔵
撮影: 瀧原 界
Q : 作品から木材との向き合い方に何かこだわりを感じました。木目を活かした作品を作っていると感じましたが、この素材を使う魅力は何でしょうか。
国松:それまで金属で彫刻を作っていた時は、何ヶ月かかけてスケッチを描いて模型を作ってから、実際に作るという計画的な作り方をしていました。
あるとき木っ端がアトリエにあって、それを使って何気なく作品を作っていたら、子供の頃に思うままにものづくりしてた頃の感覚がよみがえり、やりながらどんどん変化していった結果、自分が想像していなかったヘンテコなものができたんです。でもその方が自分を出せている気がして、そこから木材がなんか面白いなと思い使い始めました。
絶対に木材でなければいけないというわけではありませんが、素材で楽しめる要素が多いので今も使い続けています。
Q : 天然の素材ですが、作品を作るときに自然な木材を見て作品の構想が湧きますか、それともある程度こういったものを作りたいという構想があった上で、木材を探しますか。
国松:両方ですね。今は「大体こういう大きさで、こういう形だと作りたいものが作れるな」というのがわかるので、たまに見に行ったときにそれに合う木に出会えて買うこともありますし、作りたい作品のために木を探しに行くこともあります。
でも、探しに行って「このくらいのサイズの木が必要なのに見つからなかったらどうしよう」というときも(笑)。
この間も白老で見つからなかったので、音威子府まで見に行きました。そこで目的にしていたサイズのものも見つかったし、他にも使ったことのない樹種の木材も見つかって、それも挑戦してみようと。今度の個展でそれを出そうと思ってます。
Q : 作品に使えそうだとインスピレーションが湧く木のポイントは何でしょうか。例えば木目などでしょうか?
国松:立体作品の場合は木目というよりは形ですね。自分の作品の場合、素材のもともと持っている自然の強さを借りて、活かして作品にするということが多いです。木を見たときに「この部分は形を変えず、そのまま活かせばこんな作品になるな」というのが浮かんでくるとそれで選びます。
平面作品の場合は、木目とか木の色とか、もともとあるものが一つ一つ違うので、やっぱりそこを見たりしますね。
(2ページ目に続く)