普通の人でいたいけど、やりたいのでしょうがない。
谷口顕一郎さんインタビュー
インタビュー
2021 10/02
UP:2023/01/11
札幌市民交流プラザの吹き抜けに、黄色いアート作品《札幌のかたちを巡る 2018》が展示されています。制作者の谷口顕一郎さんは、札幌出身でベルリンを拠点に活動する彫刻家。道路のひび割れや壁の傷などの「凹み」をモチーフにした作品をつくり続けています。その「凹みスタディ」と、そこから視点を上空に移した「シティスタディ」。2つのシリーズの制作過程から、谷口さんのこだわりに迫りました。
・インタビュー日:2022年9月17日(土)、札幌-ベルリン(オンライン)
・参加者:荒淳一、伊藤精、田原実遊(SCARTSアートコミュニケーター「ひらく」)
札幌のかたちを巡る 2018
Hecomi Study – Exploring the shape of Sapporo 2018
立体作品:札幌の凹みスタディ Hecomi Study for Sapporo、620 x 700 x 580 cm
壁面作品:札幌かたち図鑑 Illustrated Book of Sapporo’s Shape、3000 x 500 cm
Photo by 藤倉翼
画像引用元:https://kenichirotaniguchi.com/city-study/project/sapporo
たどり着いた「凹み」のための黄色
――私たち、SCARTSアートコミュニケーターにとっても大変なじみ深い《札幌のかたちを巡る 2018》をはじめ、谷口さんの作品群はどれも明るい黄色が印象的です。
黄色は僕の作品において非常に大事な要素で、使い続ける理由は大きく2つあります。
1つは、コントラストの効果です。凹みがある所はアスファルトの地面など、たいてい汚れていたり、暗い色だったりするんですね。そこに合わせることで明暗の差を際立たせ、凹みの形をよりビビッドに僕たちの目に届けてくれる色が黄色だと思っています。
もう1つは、ネガティブな存在をポジティブなものに転換するため。凹みというのは、大体ネガティブなものなんです。壊れた箇所なので普通はみんな埋めたがる。でも、そんな凹みも形だけを見てみたら面白いんだよと、ポジティブな意味を与えてあげたいんです。
凹みフィッティング – 凹みにはめ込む –
Brunnenstr.10, Part Ⅱ, Berlin, DE #1 – Version Yellow
2007, 49 x96 cm
© Ken’ichiro Taniguchi Sculpture Studio
画像引用元:https://kenichirotaniguchi.com/hecomi-study/hecomi-fitting
――過去の作品には、他の色や異素材を使用したものもありました。これから試してみたい色はありますか?
本体の黄色を変えることは今のところ考えていないですね。これまで、さまざまな素材や色を試しました。木材、ステンレス、真鍮、赤、白、青など思いつくものは全部使ってみましたが、最終的には黄色に落ち着きました。ただ、黄色であれば何でもいいわけではなくて、いつも使うのは日本のあるメーカーさんが作っている黄色。さらに、グレーや白などの差し色を加えることで、黄色がより魅力的に見えるよう工夫しています。差し色という考え方は、たぶん彫刻ではなくて絵画的な発想ですね。大学では絵画を勉強したので、その影響が強く現れていると思います。差し色としての実験以外に、パーツ本体の色や素材を変えてみたこともあるんです。黄色だとポップな印象を与えますが、金属を使うと重厚になったり、赤だとおどろおどろしくなったり。差し色の実験と本体の色を変える実験の両方を行っています。
凹みスタディと空間の出会い
――《札幌のかたちを巡る 2018》の制作にあたって、立地や展示場所は意識しましたか?
札幌の中心部にできる公共彫刻なので、街の形をモチーフにすることは前提としてありましたね。すでにその頃から「シティスタディ」シリーズは世界のいくつもの都市で制作していたので、何の迷いもありませんでした。吹き抜け空間についても考慮しました。力が内に向いていくような、閉じこもってしまう形というのがあるんです。それは造形作家としてコントロールしないといけないものなんですが、そういうガチッとしたものはあの場には相応しくないと思いました。意識したのはもう少し外に開いていく造形。あの広い空間、しかも人がすごく集まる場所に、華やかな、開かれたものを入れたいという思いがありました。
――このインタビューの開始前に、図書・情報館の中から吹き抜けを見たところ、作品越しにテレビ塔を望む景色になり感動的でした。
へえ…。建物の周辺までは考えていませんでしたが、そうかもしれないですね。今度帰った時に見てみよう。
――展示スペースは3面がガラス張りなので、夜に外から眺めると、黄色い彫刻作品がランプの灯火のようにも見えます。
詩的で面白いですね。そのものを意識はしていませんが、「灯る」「灯す」という言葉のニュアンスはあの彫刻にぴったりだと思います。火が灯るような、人の心があったかくなるような彫刻。家に帰る道すがら、何となく胸に黄色いものが残るような、そんな印象的なものをつくれたらいいなと考えていました。
(2ページ目に続く)