ひみつ道具のような展覧会
THE ドラえもん展 SAPPORO 2021
2021 04/29
|ー2021 06/27
UP:2021/10/06
ドラえもん展には様々な現代美術家が出品しているが、私は彼らを本やネットなどメディアの世界でしか見ることがなかった。会田誠、村上隆、奈良美智などは、名前と紙に印刷された世界の美術のみを知っており、いざ実物を見ると、ドラえもんと現代アートの共演では多様な世界が繰り広げられていた。
ごく最近会田誠の著書『青春と変態』を読んでいたからか、彼の描いた風呂場を見て、どうにも邪推してしまう。『青春と変態』に見られる「覗き」への異常な追求と、のび太くんがしずかちゃんのお風呂を何度も見てしまうお決まりパターンが繋がっているようにしか思えない。だが、それは違うのかもしれない。会田誠本人が「頑張って読み解いてみてください」と述べている以上、もっと複雑なメッセージがあるのかもしれない。
奈良美智のどこかスレた顔のドラミちゃんは、ジャイアンにリボンを取られたからというのを始めて知った。確かにアイデンティティを奪われた顔は虚しい。作品自体かなり大きく、壁一面の虚無顔はインパクト抜群だ。しかも、依然としてジャイアンはリボンを返すつもりは無いようだ。傷だらけでくたびれたドラミちゃんは、涙を流しながらも取り憑かれたように正面を見据えており、心苦しく痛々しい。きっと大して考えもせずにリボンと生気を奪ったジャイアンは、全くもって罪深い。
一方、クワクボリョウタのインスタレーションは、まさに映画ドラえもんのようにワクワクさせられた。霧吹きやざるなどごく普通の物が、光と影で織りなされる異世界の道具へと変貌を遂げた時、そこには映画ドラえもんの世界が確かに存在した。空間全体が、ひみつ道具のように感じた。
むしろ、この展覧会こそが、ドラえもんの四次元ポケットから出てきたひみつ道具なのかもしれない。このひみつ道具のおかげで、何だか生きている心地を実感できたのだ。どうせならコロナウィルスも、ドラえもんのひみつ道具で何とかしてほしいなぁ・・・。