余白のある彫刻 伊藤幸子彫刻展〜月と雲のあいだ〜 鑑賞レポート

伊藤 幸子 展

ギャラリーミヤシタ
アート

2020 08/05

2020 08/23

UP:2020/08/30

伊藤幸子さんの作品という、石膏の白さがいつまでも心に残ります。もちろん、ブロンズなど他の素材で作られた作品もありますが、その白さは、単なる色というレベルにとどまらない、伊藤さんの作品の本質ともいうべきものを表しているように思えてくるのです。わたしは、それを「余白のある彫刻」と言いたい。観ているとたくさんのイメージやストーリーが湧いてくる、つまり、想像を喚起する力が強い作品であり、それはまるで、本文の周りにある余白に、思いを自由に書き込んでいるような気分にさせられるからです。

アートコミュニケーターの活動の一環として、伊藤さんの作品を題材に「対話による鑑賞」を行ったことがあります。たくさんの方たちと、自由に作品についての印象を語り合うというものなのですが、伊藤さんの作品は、こうした鑑賞のスタイルにぴったりなものだと言えるでしょう。もちろん、観る人の想像を喚起する力があるというのは、優れた作品一様に言えることでしょうが、伊藤さんの石膏像には、そうした「余白」が他の作品よりも多くあるのだと思います。だから、観る人は、安心して自由に自分の思いを語ることができる。

安心して自由に思いを語るというのは、実は、日常生活の中で意外に難しいことなのかもしれません。アートの世界が素晴しいのは、それが可能だということでしょう。伊藤さんの作品の「白さ」は、想像を自由に広げることの楽しさ、幸せで、観る人の心の「余白」を埋めてくれるのです。

鑑賞データ
日時:2020年8月22日
場所:ギャラリー・ミヤシタ

朝日泰輔

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